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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
災害時における児童の自主的な安全確保を目指した
小学生向けハザードマップ作成支援アプリケーションの開発
東京都市大学知識工学部(東京都世田谷区)経営システム工学科 岡 誠ら研究チームは、小学生によるハザードマップ作成を支援するタブレットPC向けアプリケーションを開発しました。これは、児童が災害発生時に自主的に安全を確保できる判断力を養成するためのアプリケーションであり、実際に新宿区立愛日(あいじつ)小学校の総合科目にてこのアプリケーションを用いたハザードマップ作成授業を行い、効用を確認しました。
これらの成果は、2016年6月15日に開催された第133回ヒューマンインタフェース学会研究会にて「小学生に向けたタブレットを用いたハザードマップ作成授業の提案」と題して発表しております。
本研究のポイント
○児童向けハザードマップの作成支援を目的としたタブレットPC向けアプリケーションの開発
○小学校の総合科目の中で学外フィールドワークを含めた検証実験の実施
○小学校へのICT機器の導入とその有機的活用
開発の概要
小学生によるハザードマップ作成を支援することを目的に、タブレットPC向けアプリケーションの開発を行いました。このアプリケーションでは、地図の見方を習っていない児童向けに、地図記号ではなく店舗名などを使用しているほか、各種ボタンを大きく設計するなどの工夫により、児童が自ら街の危険や防災情報を登録できるようにしました。
2015年11月~2016年2月にかけて新宿区立愛日小学校にて、4年生43名が10グループに分かれ、街を探索するフィールドワークを行い、消火器や消火栓の場所、写真、コメントを登録したハザードマップを担当するエリアごとに作成しました。続いて各グループの成果を結合した街全体のハザードマップを作成した上で、他のグループが調査した区域についても写真を見、地図と実際の町の風景を結びつけ、街全体に対する理解を深めました。
また、児童は作成したハザードマップから住宅街には消火器が多く、幹線道路には消火栓が多いことに気付き、そしてその理由について自ら考え、答えを導くことができました。これらは、ハザードマップを持たない時に災害が起こっても、自ら考えて安全を確保できる知恵に繋がると考えます。
研究の背景
文部科学省中央教育審議会(※1)では、防災や安全を小学生の時から教育することが大切とする一方、災害時の避難地図は大人を対象としていることから、適切な手段のないことが指摘されていました。
そこで本研究では、防災をテーマに扱う授業でのハザードマップ作成や発災型避難訓練(※2)を通して、児童が防災知識を基に災害状況に応じて自ら考え、最適な判断ができるようにすることを狙いとして、タブレットPCのアプリケーションを用いた学区内の安全マップ、ハザードマップ等を作成する授業のカリキュラムとそのアプリケーションシステムを開発します。また、カリキュラムは3年生から6年生各学年に合わせて年次的に理解度を深める一貫したものを提案し、授業を通して効果が検証されます。
これまでにもハザードマップを作成するカリキュラムは提案されていますが、単発的な授業であること、またすべてが紙を使ったものであり、タブレットPCのアプリケーションを用いたカリキュラムとそれに伴うシステム開発は初めての試みです。
これにより、児童は大人が作ったハザードマップを机上で学習するのではなく、ICTとフィールドワークを組み合わせて実際の風景と地図を結びつけながら、自らの視点でハザードマップ等を作成し、災害発生時に自主的に避難する力を養う事ができます。また、年次学習を通して、観察力、地域の変化、ネット上で得た情報と現実世界との関係、二次情報源としてのネットとのつきあい方といったICTリテラシーなど、各分野の内容を効果的かつ総合的に学ぶことができます。
本研究の研究者は人間工学、特にヒューマン・コンピュータ・インタラクション(※3)を専門とする大学の研究者と現役の小学校の教諭です。そのため、児童のユーザエクスペリエンス(※4)を導入したカリキュラム設計と、児童が容易に使えるシステムの開発に重点をおいています。
当研究成果が社会に与える影響、今後の予定
1. 小学校へのICT機器の導入とその有機的活用
小学校へのICT機器の導入は進んでいるものの、有効に活用できている小学校は少ないのが現状です。そこで昨年度は児童向けのタブレットアプリを開発し、体験授業を行うことで児童の防災意識の向上を図りました
2. 発災型避難訓練による自律的判断力の獲得
与えられたハザードマップを眺めるだけでは安全意識や防災意識は身につきません。そこで今年度は通学路で災害に遭遇した(発災)と仮定して、児童が自主的に安全な迂回路を考える避難訓練型学習を行います。(9月23日以降、全6回予定)
3. 将来的な展望
今後数年間をかけて前述の授業を展開する予定です。その中から、児童向けの防災授業カリキュラムが一つの成果として期待されます。また二つ目の成果として小学生のタブレットアプリに対するガイドラインなどを作ることを考えています。
用語解説
[※1]文部科学省中央教育審議会
「教育の情報化に関する手引」について(第3章 教科指導におけるICT活用参照)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm
[※2]発災型避難訓練
従来の会場型避難訓練とは異なり、日常生活の中で発災(災害が起こったこと)を想定して、自主的に判断力する力を養うことを目的とした新しいタイプの避難訓練。
[※3]ヒューマン・コンピュータ・インタラクション (Human Computer Interaction: HCI)
人間とコンピュータの相互作用。ACM SIGCHI (HCI に関する世界最大の学会)の定義では、「人間が使用するための対話型コンピュータシステムのデザイン、評価、実装に関連し、それら周辺の主要な現象に関する研究を含む学問分野」とされる。
[※4]ユーザーエクスペリエンス
製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚(認知)や反応
共同研究者
岡 誠 東京都市大学 経営システム工学科 講師
山本 栄 東京理科大学 経営システム工学科 名誉教授
森 博彦 東京都市大学 経営システム工学科 教授
中嶋 玉恵 新宿区立愛日小学校 教諭
村井 安成 エコギャラリー新宿 職員(新宿区立環境学習情報センター、新宿区立区民ギャラリー)