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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京大学生産技術研究所
自動車技術会 車室内環境技術部門委員会
快適で省エネルギーなカーエアコンを実現するための
温熱環境形成寄与率(CRI)を用いた温度予測手法の開発
東京都市大学(東京都世田谷区)永野秀明講師、東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)加藤信介教授、自動車技術会(東京都千代田区)車室内環境技術部門委員会による研究チームは、 車内環境に応じた効果的・効率的なカーエアコンの実現を目指し、温熱環境形成寄与率(CRI)※1を用いて、簡易に車内温度を予測できる手法を開発しました。
本成果は、10 月 19~21 日に開催される自動車技術会 2016 年秋季大会にて発表する予定です。
本研究のポイント
○エンジンの高効率化や電気自動車の登場により、カーエアコンを省エネルギー化する技術の開発が課題となっている
○カーエアコンの吹き出し温度や風量、日射量、外気温といった熱的要因の影響を考慮した温熱環境形成寄与率(CRI)を車内の温度予測計算に適用した
○実車中の車内環境に応じた効果的・効率的な風量・風向の自動選択、および車両開発時の最適な空調システム作りに貢献
概要
カーエアコンは家庭用エアコンと異なり、基本的には設置場所と人間との位置関係が定まっていることから、吹き出した空気の流れが人間に及ぼす影響は一定であると見なせます。そのため室内の温度は、エアコンの吹出温度や風量、窓からの日射量、外気温といった熱的要因からの影響を足し合わせることで簡単に計算することができることになります。
そこで本研究では、このような熱的影響度を温熱環境形成寄与率 (Contribution Ratio of Indoor climate, CRI)として計算に用いることで、空間内の温度を簡易に予測する手法を開発しました。
一般に、実験をすることなく温度分布を予測するためには CFD (Computational Fluid Dynamics, コンピュータを用いた流体シミュレーション)※2 技術を用いますが、これには高性能のコンピュータによる長時間の計算が必要となる上に、条件変化時にはその都度再計算が必要となるため、あらゆる条件を網羅的に検証することは困難です。一方、本手法では、最初に CFD によるシミュレーションを行い、そのときの気流分布や各熱的要因からの影響 (CRI) を算出しておくことで、条件が変化した場合であっても、求めておいた CRI の値を変化した条件に応じた比率で足し合わせるだけで温度を算出することができます。この手法を実車に搭載すれば、車内空間各所の温度を直接測定することなく予測することが可能となり、乗員が快適に感じるよう※3、送風量や風向、温度を制御することができます。また、開発時に用いればよりよいカーエアコン作りに活用できます。
研究の背景
(背景 1) カーエアコンの意義は車内空間を快適に維持することです。冬季においては車内を暖房するため、ガソリン車ではエンジンからの排熱を熱源に利用しており、電気自動車ではバッテリーの電力を利用しています。しかし近年では、エンジンの高効率化が進み排熱量が少なくなっていることから、ガソリン車では熱源の確保が難しくなる一方、電気自動車ではバッテリーの電力消費が航続距離の短縮に直結することから、カーエアコンには、より少ないエネルギーで乗員の快適性を向上させることが求められています。たとえば乗員のない座席付近のように、必要でない空調を低減することはカーエアコンにおけるエネルギー削減の有効な一手となります。
(背景 2) 自動車メーカーが車両およびカーエアコンを開発する際には、車内空間における空気の流れや温度を調整してカーエアコンが効率的・効果的に機能するよう、多くの費用と時間を要する試作車を用いた実験を行っています。また近年では CFD (コンピュータを用いた流体シミュレーション)による予測も用いられてきていますが、計算に数日~数週間かかることがあるため、計算時間の短縮が求められています。
このような背景により、車内温度の簡易かつ高精度な予測手法の確立が求められています。
図 2 CFD によって計算した気流分布
足元に温風が当たっていることがわかる
期待される成果
本成果により、車内空間の快適性と省エネルギー性能を向上させ、ガソリン車における環境負荷の低減や、電気自動車の航続距離改善に伴う普及促進が期待されます。また、カーエアコンの最適配置が提案できることから、より効率的で迅速な自動車開発の実現が待たれます。
用語解説
[※1]CRI (温熱環境形成寄与率)
本研究において、空間の温度に影響を及ぼす各要素の影響度を分析する指標。例えば室内の温度は、エアコンの吹出温度や風速、窓からの日射、室内の発熱(電灯や電気機器など)の影響によって決定される。これらの要素がそれぞれどの程度影響しているかを表す値が CRI である。各要素のCRI を足し合わせれば本来の温度を算出できるため、事前に CRI を求めておくことで、様々に状況が変化した場合でも簡単に温度を予測することができる。
[※2]CFD (数値流体力学)
流体の動きをコンピュータによって解析し、予測する技術のこと。例えば物理学の問題の典型例である、「ある物体を速度 v で真上に投げたら、何秒後に落下してくるか」という問題は、物体の動きを予測していることに他ならない。それと同様に、「流体の動きがどうなるか」ということを計算によって予測するのが CFD である。CFD は、実際にジェットエンジンの設計や台風の進路予測など、非常に幅広い分野で応用されている既存の技術であるが、計算のためには高性能なコンピュ ータによる膨大な計算が必要となる。
[※3]快適性
人間が感じる「暑い」「寒い」といった感覚に伴う快適性のことを温熱快適性と呼ぶ。通常、人間の体温は周囲の環境よりも温度が高く、体組織の生命活動のために体温を一定に維持している。「暑くも寒くもない」場合には、人体はその環境下で体温を維持することが容易であることを意味しており、生存に最も適しているといえる。快適性を評価するための指標として、等価温度※4 がある。
[※4]等価温度
いわゆる「体感温度」を客観的に評価するための指標のひとつ。人間の快適性の程度を、人体からの放熱量と対応させて評価する。例えば、「気温 28 ℃で扇風機を使うとき」と、「気温 23 ℃で扇風機を使わないとき」を比較した場合、人体の放熱量と皮膚温が両条件で等しければ、「気温 28 ℃で扇風機を使うときの等価温度は 23 ℃である」と表現する。
研究チーム
永野 秀明 東京都市大学 工学部機械システム工学科 講師
田ノ上 康弘 東京都市大学 工学研究科機械システム工学専攻 修士 1 年
加藤 信介 東京大学 生産技術研究所 教授
公益社団法人 自動車技術会 車室内環境技術部門委員会