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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)理工学部 自然科学科の津村 耕司准教授は、海洋生物の化石データから、地球上の生命が絶滅しなかった確率を推定する方法を提案し、この成果がSpringer Nature社の発行するScientific Reports誌に、7月30日付で掲載されました。
地球の過去5億4000万年における海洋生物の化石データベースを用いて、地球上の生物の大絶滅の規模と頻度を解析することで、地球上の生命の誕生から現在までの約40億年間に生命が絶滅せずに生き残れた確率は約15%であると推定しました。現在までに4000を超える太陽系外惑星が発見され、次は地球外生命の初発見が期待されていますが、今回の成果は、太陽系の外で生命を宿すような天体の数を推定する際にも応用が可能です。
本研究のポイント
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地球の過去5億4000万年における海洋生物の化石データベースから、地球上の生物の大絶滅の規模と頻度を解析しました。
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その結果、地球上の生命が、誕生以降現在まで幸運にも絶滅せずに生き延びることができた確率は約15%と推定することができました。
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この値は、生命が存在するような太陽系外惑星の数を推定する際などに応用することができます。
概要
東京都市大学 理工学部 自然科学科の津村 耕司准教授は、過去5億4000万年間(顕生代)の海洋生物の化石データベースを用いて、過去の生命の大絶滅(*1)の規模と頻度を解析しました。その結果、地球上の生命が、誕生以降現在まで幸運にも絶滅せずに生き延びることができた確率は約15%と推定することができました。
図1は本研究で使用したデータであり、図1(左)は化石データに基づく海洋生物属の数の時間変化、図1(右)はこのデータから求められる各時代ごとの絶滅の規模を表したものです。これらのデータから作成した絶滅の規模のヒストグラム(度数分布)が図2です。このヒストグラムは、対数正規分布関数でよく近似できます。過去の生物の大絶滅は、火山の大規模噴火や隕石の衝突など、偶然な自然現象によると考えられていますが、そのような偶然により発生する現象のヒストグラムは対数正規分布関数でよく近似されるという数学的な原理とよく一致する結果と言えます。この結果は、過去5億4000万年間において、地球上でどのような規模の絶滅がどのような確率で発生していたのかという事を表しています。この確率に従うと、直近の5億4000万年の間に地球上の生物が生き残れた確率(*2)は約76%であった、言い方を変えると、地球上のすべての生命が直近の5億4000万年の間に絶滅していたかもしれない確率は約24%であったと推定できます。
現時点で人類が手にすることのできる精度の良い化石データは直近の5億4000万年間に限られ、それ以前のデータは十分ではありません。一方で、地球上での最初の生命の誕生は今から約40億年前と考えられており、この間には大きな開きがあります。そこで本研究では、直近の5億4000万年間の化石データの解析で得られた大絶滅の頻度分布が、最初の生命の誕生から現在までの40億年間で一定だと仮定して、地球生命が誕生以降、幸運にも絶滅しなかった確率(*2)を推定したところ、約15%という結果が得られました。
図1 [左]化石データベースにおける海洋生物属の数の時間変化。黒のデータは知られている全データを示しており、青のデータは確度の低いデータは取り除いたものである。[右]このデータから求まった各時代ごとの絶滅の規模(絶滅した生物属の割合)。データはRohde & Muller (2005) より。
図2 化石データから求まった絶滅の規模のヒストグラム(度数分布)。赤線はこのデータを近似する最適な対数正規分布関数とその不確かさの範囲。
研究の背景
1995年の太陽系外惑星(*3)の初発見以降、現在までに4000を超える太陽系外惑星が発見されており、次の期待は地球外生命の初発見となります。そこで、地球外の天体に生命を探そうとする研究は近年盛んに行われていますが、人類はまだ地球上に存在する生命以外の生命をまだ知らないので、どのような天体を探せば生命が存在するのか、生命を宿す天体はこの宇宙にどれくらいの数だけ存在するのかを推定することは非常に困難です。地球外生命の探査には、天文学、惑星科学、生命科学などの知見を広く組み合わせた学際的なアプローチが必要であり、それはまさに東京都市大学 理工学部 自然科学科が掲げる研究・教育ポリシーでもあります。そこで本研究では、我々が唯一入手可能な地球上の生命の歴史を化石の情報から探るという古生物学的なアプローチを通して、地球外生命探査という宇宙科学における大問題に挑みました。
研究の社会的貢献および今後の展開
この成果は、太陽系の外で生命を宿すような天体の数を推定する時などに応用できます。例えば、銀河系内に地球のような文明を持つ天体の数を推定する式として、ドレイク方程式(*4)があります。ドレイク方程式を用いて生命を宿す地球外天体の数を推定する際には、「誕生した生命が知的生命体にまで進化する確率」を推定する必要がありますが、これは容易ではありません。なぜなら、私たちが現時点で知っているのは「地球では生命が誕生してから人類が誕生するまでに約40億年かかった」という地球の歴史の一例だけなので、仮に地球外の天体に生命が誕生したとしても、その生命がどのようなスピードで進化して知的生命体にまで進化するか分からないからです。そこで本研究では、「生命の誕生から知的生命体に進化するまでの時間は約40億年」という地球での値が宇宙共通であると仮定することで、本研究にて求めた「地球生命が40億年間で絶滅しなかった確率は約15%」という値を、ドレイク方程式の「誕生した生命が知的生命体にまで進化する確率」として用いることを提案しています。この値は確かに幾つもの仮定がはさまった推定値ではありますが、今まではこの値を推定する手がかりが全くなく、「勘で」「当てずっぽうで」値を推定するしかなかった状況の中で、本研究では、地球の歴史という確かなデータを元に推定値を出したということに大きな意味があります。
また、他の惑星に人類のような知的生命体が存在する確率は小さいかもしれませんが、例えば植物のような生命なら存在する確率はより高まるかもしれません。特に最近では、太陽系外惑星の大気に酸素(O2)やオゾン(O3)を探すことで、光合成を行う植物のような生命を宿す天体を探そうという試みが注目されています。そのような天体の数を推定する際にも、同様の方法で本研究の成果を利用できます。地球の歴史では、生命の誕生から光合成により大気中の酸素濃度が急上昇するまでに約15億年かかりました。本研究の成果から、地球の歴史において「生命の誕生から生命が光合成を獲得し酸素濃度を急上昇させるまで絶滅しない確率」は約50%と求まります。ここから、もし太陽系外惑星に生命が存在するのなら、その内の約半分は光合成を獲得しており大気に大量の酸素を放出しているため、地球からの天文観測でそれを検出可能かもしれない、と推測することができます。
補足
論文情報
Tsumura (2020), “Estimating survival probability using the terrestrial extinction history for the search for extraterrestrial life”, Scientific Reports, 10, 12795, DOI: 10.1038/s41598-020-69724-2
用語解説
*1 大絶滅:
ある時期に多種の生物が同時に絶滅すること。顕生代(約5億4000万年前~現在)においては、オルドビス紀末(O-S)、デボン紀末(F-F)、キャピタニアン紀末(Cap)、ペルム紀末(P-T)、三畳紀末(T-J)、白亜紀末(K-Pg)という6度の大絶滅が知られています。図1ではこれらに加え、カンブリア紀の2度の大絶滅(BとD)も見られます。地球の歴史において最大の大絶滅として知られているのはペルム紀末の大絶滅(P-T)であり、恐竜が絶滅したことで知られている大絶滅は白亜紀末の大絶滅(K-Pg)です。
*2 地球生命が生き残れた(絶滅しなかった)確率
本研究では、地球上の生命の絶滅と進化の歴史を、「絶滅くじ」を300万年間に1度の頻度で繰り返し引くという単純なモデルだと考えます。図1は化石データから求まった絶滅の規模のヒストグラム(時間分解能:300万年)ですが、これを地球上で発生する絶滅の規模の確率分布だと解釈します。すなわち、「絶滅くじ」の結果が0.05の場合、その時点で存在する生物属の5%が絶滅すると解釈します。もし「絶滅くじ」の結果が1以上となってしまったら、それは地球上に存在する全ての生命が絶滅するということを意味します。図1より、「絶滅くじ」の結果が1以上となる確率、すなわち300万年の間に地球上の全ての生命が絶滅する確率は0.15%と推定できます。そこで、地球上の生命が約37-41億年前の誕生から現在まで絶滅せずに生き残ってきた確率は、生命の誕生から現在に至るまで、勝率99.85%の「絶滅くじ」において1200 回以上連続して勝ち続けた確率として計算でき、それは約15%と推定できます。
*3 太陽系外惑星:
太陽以外の恒星を回る惑星のこと。1995年に太陽系外惑星を最初に発見したジュネーブ天文台のミシェル・マイヨールとディディエ・ケローは、この成果で2019年にノーベル物理学賞を受賞しました。太陽系外惑星では、中心星のすぐそばを回る巨大ガス惑星である「ホットジュピター」、地球の数倍の大きさの岩石惑星である「スーパーアース」など、太陽系には存在しないような惑星も数多く見つかっています。地球外生命探査の観点では、中心星からの距離がほどよく、水(H2O)が液体で存在できるために生命の存在に適していると考えられる「ハビタブルゾーン」に位置する地球型惑星が注目されており、そのような天体に、酸素やオゾンなどの「バイオマーカー(生命存在の証拠)」を探そうとする研究が盛んです。
*4 ドレイク方程式:
我々の銀河系内に人類と交信可能な文明を持つ天体がいくつあるかを推定する式であり、1961年にアメリカの天文学者フランク・ドレイクが提示しました。一般にドレイク方程式は下記の形で表されます。
N = R × fp × ne × fl × fi × fc × L
N ・・・ 銀河系内で、文明を持つ生命が存在する星の数
R ・・・ 一年間に銀河系で生まれる(生命の存在や進化に適する)恒星の数
fp ・・・ その恒星が惑星を持つ確率
ne ・・・ その恒星一つあたりが持つ、生命が生存するのに適した惑星の数
fl ・・・ その惑星で生命が存在する確率
fi ・・・ その生命が知的生命体に進化する確率
fc ・・・ その知的生命体が、文明を持つ程度まで進歩する確率
L ・・・ その文明の寿命
最近の天文観測により、R, fp, neの3つについては精度の高い推測が可能となってきましたが、残りの項については、人類は地球生命という一例しか知らないため、推測が非常に困難です。その中で本研究では、人類が入手可能な唯一のデータである地球の歴史を宇宙全体に適用するという仮定をおくことで、fiの値を推定する手法を提案しています。
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)