- HOME
- トピックス一覧(プレスリリース)
- トピックス詳細(プレスリリース)
トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)メディア情報学部 情報システム学科の市野 順子教授ら研究チームは、360度のバーチャル空間を提示する2種類の「没入型ディスプレー」についてユーザーの認知活動(思考)に及ぼす影響を多面的に評価し、認知活動の促進には室内投影型(CAVE)の方が頭部装着型(HMD)よりも効果的であることを明らかにしました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、自宅で過ごす時間が多くなる中、バーチャル空間を活用するためのVR(バーチャル・リアリティ)機器への注目が一層集まっています。
今回、頭部に装着するゴーグル型のヘッドマウンティングディスプレー(以下、HMD)と、室内で四方の壁に360度の動画を映し出すプロジェクション型ディスプレー(以下、CAVE)を用いて、ユーザーの記憶や脳波、心拍、温度等を評価した結果、認知活動の促進においてはCAVEの方がHMDよりも効果的であることが明らかになりました。これにより、教育や学習等、活発な認知活動が期待される場面にて360度の動画視聴を行う際にはCAVEの方が適しているとの結論が得られました。
今後は本研究成果の発信を通じ、用途に応じた没入型ディスプレーの活用が促進されることを期待しています。なお、これらの研究成果は情報処理学会論文誌(61巻11号、2020年11月)に掲載されました。
本研究のポイント
-
360度動画視聴用の2種類の没入型ディスプレーがユーザーの認知活動(思考)に及ぼす影響を多面的に評価
-
ユーザーの認知活動促進には、頭部に装着するゴーグル型のヘッドマウンティングディスプレー(HMD)よりも室内で四方の壁に360度の動画を映し出すプロジェクション型ディスプレー(CAVE)の方が効果的である
-
教育や学習の場面にはCAVEを、エンターテインメントやヒーリングの場面にはHMDの活用を推奨
概要
東京都市大学 メディア情報学部情報システム学科の市野 順子教授ら研究チームは工学院大学情報学部コンピュータ科学科の淺野 裕俊准教授と香川大学工学部の学生の協力を得て、バーチャル空間を提示するための「没入型ディスプレー」 が人の認知活動(思考)に及ぼす影響を評価しました。没入型ディスプレーにはいくつかのタイプがあり、今回の実験には装着するゴーグル型のヘッドマウントディスプレー(HMD)と室内で四方の壁に360度の動画(パノラマ映像)を映し出すプロジェクション型ディスプレー(CAVE)の2種類を用いました。多面的に評価した結果、CAVEの方が認知活動の促進により効果的であることが分かりました。
実験では、15人の大学生が、HMDとCAVE(図1)を使って複数の360度動画を視聴しました。認知活動の過程を測定するために、脳波・心拍・鼻部皮膚温度等の生理的指標(図2)および360度動画の左右や後方までどれくらい見回すかといった行動的指標を用いました。また、認知活動の性能を測定するために、視聴後に動画の内容をどれだけ覚えているかの記憶テストを行いました。
実験の結果、CAVEで視聴すると、視聴中はユーザーに適度な認知負荷がかかり(交感神経活動を反映するとされる鼻部皮膚温度が低下し)かつ記憶テストの点数が高く、HMDで視聴すると、視聴中、ユーザーは動画の後方までよく見回すものの記憶テストの点数は低いことが明らかになりました。
今回の結果から、活発な認知活動が期待される教育や学習の場面での360度動画の視聴にはCAVEの方が適していると考えられます。今回の研究成果は、情報処理学会論文誌(61巻11号、2020年11月)に掲載されました。
研究の背景
360度動画(パノラマ映像)は、従来の動画よりもポジティブな感情を引き出すこと、HMD、コンピューター、モバイル端末など多くの一般的なデバイスで視聴できること、動画制作に要する機材や人件費が安いことなどから、マーケティングや情報伝達の手段として、他のVR技術より一般的なものになりつつあります。
前方以外の映像を含む360度動画を視聴しているユーザーは、単に動画を受動的に受け取り処理するのではなく複合的な認知活動を行っていると考えられます。一般的になりつつある360度動画を視聴するユーザーの認知特性を理解することは興味深いことです。一般に、ある課題を行っている人間の認知活動を測定する場合、認知活動の過程(どのように課題を処理したか)と認知活動の性能(どの程度課題を達成できたか)の両方の観点から測定することが重要と考えられています。
そこで本研究では、360度動画視聴用のディスプレーとして、急速に普及が進むHMDと、今後普及が見込まれるCAVEの2種類の没入型ディスプレーに焦点を合わせ、360度動画視聴時のユーザーの認知特性を、認知活動の過程と性能の両観点から、認知・生理・行動の指標を用いて、多面的に分析しました。
研究の社会的貢献および今後の展開
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックの中、自宅での教育や学習のコンテンツの需要が増加しています。例えば探検ツアーや博物館といった知識の獲得を目的とする360度動画は、ユーザーの認知活動を促進することが望ましいため、CAVEを用いてサービスを提供することが期待されます。
同様に、自宅で体験できるエンターテイメントサービスへの需要も高まっています。例えばトラベルコンテンツやバーチャル展示会といったエンターテインメント性の高い360度動画は、ユーザーに動画のさまざまな方向を見回して楽しんでもらうことが望ましいため、HMDを用いてサービスを提供することが期待されます。
本成果の実績
【論文掲載】情報処理学会論文誌(61巻11号、2020年11月)
URL : http://doi.org/10.20729/00207641
補足
実験方法に関する動画を以下「都市大公式You Tubeチャンネル」よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=L5Na-G5L8MI
共同研究者
工学院大学情報学部・准教授 淺野裕俊氏
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)