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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)建築都市デザイン学部 建築学科の小林茂雄教授らは、照明環境が生体リズムや睡眠の質に及ぼす影響について検証・考察を行い、室内照明(照度・色温度)を自然光の変化に合わせて調節することが健康維持につながることを明らかにしました。
コロナ禍による在宅勤務の浸透もあり、多くのビジネスパーソンが自宅室内で長時間を過ごすようになりました。この度、全国の25歳~59歳、正社員・フルタイムで働くオフィスワーカー男女600名に調査を行ったところ、5人に1人がコロナ以降、生活リズムの乱れを感じており、リモートワークになっている人のほうがその傾向が顕著であることが分かりました。これをもとに、オフィス勤務および在宅勤務における光の照度と色温度を計測した結果、一般的に在宅勤務ではオフィス勤務より、昼間に浴びる光が弱い(照度が低い)ことから夜間のメラトニン※1分泌量が減少し、生体リズムを乱す一因となっていることが判明しました。
また合わせて、室内照明と睡眠の質を検証した結果、一般的な照明器具よりも自然光※2の変化に合わせて照度と色温度を調整できる照明器具を用いる方が、深い睡眠が促されることが分かりました。
本研究成果の発信を通じ、在宅勤務が一般化した時代における住宅やオフィスの照明状態、光環境の向上が図られ、一層快適な労働環境が実現されることを期待します。
なお、検証結果の詳細は、こちらからご覧いただけます。
本研究のポイント
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ビジネスパーソンが仕事中に浴びている光の強さや光色(寒色/暖色)は自然光とかけ離れており、昼間は浴びている光が弱く(照度が低く)、夜間は白く明るい光を浴びすぎている。
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在宅勤務は、オフィス勤務よりも昼間に浴びている光が弱い(照度が低い)ため、夜間にメラトニンが分泌されにくくなり、生体リズムを乱す要因となりやすい。
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室内照明(照度・色温度)を自然光の変化に合わせて調節することで、健康維持が期待される。
概要
今回の研究では、生体リズムや睡眠の質を高める光の条件と、一般家庭やオフィスにおける適切な照明器具の選び方、コントロール方法について検証・考察しました。
検証① オフィス勤務/在宅勤務中に浴びる光の照度・色温度計測
ビジネスパーソンが屋内で仕事中に浴びている光の強さや光色(色温度)は、自然光の状態とかけ離れており、昼間に浴びている光が弱く(照度が低く)、夜間は白く(色温度が高く)明るい光を浴びすぎていることがわかりました。特に、オフィス勤務よりも在宅勤務の方が昼間に浴びている光が弱く(照度が低く)、夜間にメラトニンが分泌されにくくなることから、光環境的に、オフィス勤務よりもさらに生体リズムを乱す要因となりやすいことが明らかとなりました。
検証では、被験者5名が起床時・就寝時と、仕事中に浴びている光の照度・色温度を2時間ごとに測定。浴びている照明の光が、自然光や生体リズムを整える光環境とどのぐらい差があるかを検証しました。
検証② 寝室の照明条件による睡眠の質への影響
自宅での「適切な照明条件」を探るため、寝室の照明条件が睡眠の質へ及ぼす影響を検証しました。
寝室の照明を、自然光の変動を考慮したシンクロモードの照明環境にし、光源が直接目に入らない上向き間接照明とし、日没時の自然光に近い状態を照明器具で再現しました。日没時の自然光の光色で空間全体を包むように照らすことで、睡眠を促すメラトニンが分泌され、入眠直後に深いノンレム睡眠状態に入ることを発見いたしました。
検証では、現在地の自然光に合わせて調光(明るさを調節)・調色(色温度を調節)するとともに、ヘッド(照明の光源部分)を回転させることのできる照明器具を用いました。被験者4名が、条件A(通常照明)と条件B(シンクロ照明※3)の環境で、それぞれ5日間、睡眠時のデータを、睡眠時間・睡眠の質を計測できるスマートウオッチで取得しました。その結果、照明条件によって合計睡眠時間に差はなかったものの、通常照明ではレム睡眠などの浅い睡眠の比率が高いことが分かりました。一方、自然光の変動を考慮したシンクロ照明では、深い睡眠の比率が高くなるという結果が得られました。
条件A:通常照明(調光・調色なし)
夜間の寝室の照明を、白色光(5000K)で、通常の明るさ(枕元200ルクス)で照明。就寝時には消灯し、起床時には自分で点灯。
条件B:自然光シンクロ照明
自然光の明るさと光色(色温度)に合わせて自動調光する照明モードを使用。就寝時間と起床時間を各自で設定し、就寝予定1時間前から暖色光(2700K)の間接照明に切り替わる。空間全体が薄暗い明るさ(枕元1ルクス)となり就寝時刻に消灯。起床設定時刻の30分前から徐々に照明が点灯していくモード。
(左)条件Aの写真 (右)条件Bの写真
研究成果に至った背景
コロナ禍でライフスタイルや働き方が変わり、睡眠をはじめとする生活リズムが乱れてしまう人が増えています。特に、リモートワークを取り入れているビジネスパーソンにおいて、その傾向が顕著です。
外出頻度の減少やリモートワークの普及によって、自宅(室内)で過ごす時間が増えたことに伴い、自然光を浴びる時間が減少し、スマホやパソコンの画面を見る時間が増えています。また同じ室内でもオフィスと住宅では光環境が異なります。光は生体リズムと深い関係があることが知られています。そのように「光環境」が大きく変化したことが、生体リズムや睡眠に影響していると推測されます。
今回の研究ではその仮説に基づき、生体リズムや睡眠の質を高める光の条件と、一般家庭やオフィスにおける適切な照明器具の選び方、コントロール方法について検証・考察しました。
研究の社会的貢献および今後の展開
新型コロナウイルスの影響は長期化が予想されるほか、コロナ収束後も在宅勤務を継続する企業も多いため、生活リズムや睡眠の乱れといった課題は、今後より深刻になる可能性があります。
本研究で明らかになった、生体リズムや睡眠の質を高める光の条件と、一般家庭やオフィスにおける適切な照明器具の選び方、コントロール方法は、体のリズムが乱れがちなコロナ禍の健康維持や、住宅やオフィスの照明状態、光環境の設計として役立つことが期待されます。
用語解説
※1メラトニン
脳内の松果体において生合成されるホルモン。分泌は主に光によって調節されており、睡眠・覚醒リズム(サーカディアンリズム)の調節作用をもつ。夜間に強い照明の中にいるとメラトニンの分泌が抑えられ、眠れないなどの生体リズムが乱れる原因となる。また鳥類での渡りのタイミングなど、他の多くの生物でもメラトニンは生体リズム調節に重要な役割を果たしている。
※2自然光
太陽を光源として、地球上に到達する光であり、場所、時間帯、天候などによって、明るさ(照度)と角度と色温度が変化する。一日の自然光の変化に影響を受けて人間の生体リズムが形成されている。
※3シンクロ照明
現在地の自然光に合わせて、明るさと色温度を自動で調整する照明。本実験では、シンクロ照明モードに、各被験者の生活パターン(就寝時間と起床時間)を組み込んで設定している。
補足
・検証②には、使用する場所の自然光と連動することができるDyson Lightcycle Morph™フロアライトを使用。(特別協力:ダイソン株式会社)
・検証②の睡眠データ計測には、スマートウォッチ「Fitbit Sense」を使用。
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)