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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:野城 智也)都市生活学部 都市生活学科の高柳 英明教授は清水建設株式会社(東京都中央区、社長:井上 和幸)との共同研究の一環で、スポーツスタジアムやアリーナなどの混雑環境における入退場時の観客人流の実態調査とその混雑評価を実施するとともに人体装着型のバイタルセンサ(※1)のデータ解析を行い、局所的な混雑の様態と体感的な快・不快の関連性を見出しました。同社との共同研究では、設計計画現業の初期段階において設計者が簡易に扱える人流シミュレーション環境の構築を目指しています。
ポストコロナ社会では、群集密度(※2)や人流把握に対し意識・注目が高まりました。同時に都市の歩行空間や集客施設の室内歩行領域等では、災害避難時だけでなく、日常的な旅客・観客の人流制御(※3)への要求も増しています。特にスポーツ施設等では、局所的な混雑や人流交差による停滞または滞留が生じます。これらの問題に対し、現場での誘導手法の確立や適切な建築計画・アリーナ設計にフィードバックすることが解決策として挙げられます。
従前のアリーナ設計では、観客の歩行動線を設計する際の指針であるサービス水準(歩行空間の歩きやすさの指標)を用いていました。しかしこの方法は均質で一様な数値指標のため、多様な形状の通路やホワイエでの適用が困難であり、また実際の混雑様態における観客の感性(快・不快の度合い)の予測もほぼ不可能でした。そこで本研究は、そうした形状の多様性や、局所的かつ非定常な人流密度と、その体感的な快適・不快適の度合いの連関を、被験者バイタルデータとの精査により見出しました。これにより、比較的大規模なホールやスタジアム設計において、より人を中心に据えたデザインソリューションが期待できます。
なお、これらの研究成果は日本インテリア学会論文報告集に掲載されており、8月27日(火)〜30日(金)に開催した日本建築学会大会(関東)において発表しました。
本研究のポイント
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これまでの人流混雑評価では困難であった「局所混雑」と「バイタルデータ」の連関を明示した。
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群集密度が低い場所でも、突然速度が停滞したり自由歩行が阻害されたりする場所において、バイタルデータ中のEDA(ヒヤリ反応)とECG(ストレス反応)および感性反応(被験者の体感的な度合い)に特徴的な傾向が見られた。
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幕間・インターミッション等の休憩時の行動、特に物販・トイレ利用などでは、動線を逆行する際の体感数値の評価も可能となった。
概要
東京都市大学 都市生活学部の高柳 英明教授は、ゼネコン国内大手である清水建設株式会社の技術研究所および設計本部と共同で、設計計画現業の初段階において設計者が簡易に扱える人流シミュレーション環境の構築に向け、首都圏の実地アリーナ施設を対象とし、アリーナ観客の入退場時の混雑様態の現況調査をしました。
その結果、エリア・箇所ごとの群集密度の把握にあわせ、局所的かつ非定常に現れる歩行負荷を見出し、その事象の混雑評価を、人体装着型のバイタルセンサのデータおよび体感的な快・不快の度合いの関連性を見出しました(図1)。
具体的には、一般的に「混んだ状態」と人々が認識している密度下であっても、感性反応(押しボタン反応回数)毎に見たEDAとECGを見ると、ストレスの現示度合いに特異な傾向が見られます。例えば、図2の左上・下のグラフから分かることは、必ずしも群集密度が高い時にストレス度合いが高いわけではない事や、密度が低い時でも、突発的な遮り等による歩きにくさを感じる場合の方が顕著なストレス増になっている事が分かります。
研究の背景
ポストコロナ社会では、群集密度や人流把握に対し意識・注目が高まりました。同時に都市の歩行空間や集客施設の室内歩行領域等では、災害避難時だけでなく、日常的な旅客・観客の人流制御への要求も増しています。特にスポーツ施設等では、「混雑なく、安全安心に観戦できる」ことがレジャーサービスの質向上に大いに寄与すると捉えられています。試合開始と終了またはその前後の入退場時に、局所的な混雑や人流交差による停滞または滞留を来さぬよう、現場誘導手法を確立したり、適切な建築計画・アリーナ設計にフィードバックしたりすることが解決策として挙げられます。
従前のアリーナ設計では、観客の歩行動線を設計する際の指針であるサービス水準(歩行空間の歩きやすさの指標)を用いていました。しかしこの方法は均質で一様な数値指標のため、多様な形状の通路やホワイエでの適用が困難であり、また実際の混雑様態における観客の感性(快・不快の度合い)の予測もほぼ不可能でした。そこで本研究では、そうした形状の多様性や、局所的かつ非定常な人流密度と、その体感的な快適・不快適の度合いの連関を、被験者バイタルデータとの精査により見出しました。
本研究の成果により、比較的大規模なホールやスタジアム設計において、より人を中心に据えたデザインソリューションシステムの構築が可能であり、特に昨今の情報社会への対応として、設計計画現業の初段階において設計者が簡易に扱える人流シミュレーション環境の構築に大いに寄与するものと考えています。
研究の社会的貢献および今後の展開
本研究の成果は、建築・集客施設整備の情報化・DX化にかかり、以下の貢献が期待されます。
◯これまで不可能とされていた、非定常な人の行動を加味した建築計画・設計システムが構築できる点
○建築ハード整備のみに頼らない大規模駅環境の高機能・高密度化に寄与できる点
○人流把握・解析をベースにした建築計画・ストック活用のソリューションビジネスとして展開できる点
用語解説
※1 バイタルセンサ:
超小型の電極接子を人体の胸部・腹部・掌および指先に貼り、電極間電位の変様から生理的な不快やストレス、安息状態をセンシングする機器である。主な指標にEDA(皮膚電位差、瞬発的なストレスの増減を測る)、ECG(心電位差、60秒程度以上の中定常ストレス増減を測る)、プッシュ信号(被験者が体感的に感じる度合いを押しボタン回数で得る)などがある。
※2 群集密度:
不特定多数の利用する空間等での混雑度合いを示す、単位面積あたり何人の歩行者が存在するかで示す[人/㎡]一様な指標である。またこの逆数をサービス水準[㎡/人]とよび、特定の空間の歩きやすさを1人あたりの歩行空間の広さとして示す、同じく一様な指標である。
※3 人流制御:
混雑空間では歩行者は一種の流れを呈する。また目的を別にした流れが交差・交錯するとき、歩きにくさを感じたり、必要以上に不快な思いをし、歩行ストレスにつながる。極端な場合は歩行者同士が衝突したり、群集雪崩(なだれ)などが起こる。また道案内サインの前やショップ入り口付近では滞留(たいりゅう)と呼ばれる人だかりができる。こうした流れと溜まりを動的に交通整理する事を人流制御と呼ぶ。
共同研究者
清水建設株式会社 技術研究所 都市空間技術センター
設計本部 デジタルデザインセンター
<取材申し込み先>
企画・広報課(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)