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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:野城智也)理工学部 自然科学科の福田達哉教授らは、2023年に、強風に対して葉の主要部分である葉身(ようしん)はサイズを縮少させ、またそれを支える葉柄(ようへい)(※1)も短くすることで強風による負荷を低減させていることを明らかにしました(※2)。今回新たに、先端に花や花序をつける花茎(※3)は葉柄よりも強固であるにもかかわらず、その長さを短くして負荷を低減させていることを発見しました。
近年、地球温暖化による気候変動により、台風の勢力が増大化するといったデータもあります。それに伴い、海岸沿いの強風エリアでは、その影響が大きくなるために、植物が持つ強風によるストレスの低減戦略が注目されています。植物が持つ強風ストレスを低減できる主な特徴は、葉身を小さくし、葉柄を短くすることなどが知られていましたが、それだけでは繁殖までの説明が難しく、その他の器官の解析が求められていました。
今回検証した植物は、葉とは独立して秋から冬にかけて花茎を長く伸ばし、その先端に花が集まった花序を形成するキク科植物の一種である「ツワブキ」(※4)です。海岸沿いに生育するツワブキ集団と、内陸に生育するツワブキ集団とを比較しながら、力学的解析を行いました。その結果、花茎が葉柄よりも力学的には強固に形成されていることが示され、この花茎の頑健性は、葉柄よりも有意に細胞壁量が多く、また異なる維管束型が関与していることを明らかにしました。また、海岸沿いで強風環境下におかれたツワブキ集団は、強固に形成されていながらも損壊した場合に翌年まで快復を待つ必要のある花茎を、葉と同じ高さまで短くすることで、自身の葉に強風から守ってもらうようになっていることも示されました。
なお、これらの研究成果は、科学雑誌『Frontiers in Plant Science』オンライン版にて、8月6日に掲載されました。
今後は、他の植物についても海岸沿いに生育するものと内陸に生育するもので形態に違いが認められるかを調査していく予定です。それを受け、国内外で遺伝子レベルの研究が進められることも期待します。
本研究のポイント
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海岸沿いの強風環境下における植物の花茎が、葉柄よりも頑健性を獲得しているにもかかわらず、長さが短い仕組みについて新たに発見しました。
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この花茎の頑健性には、花茎の細胞壁量の違いと異なる維管束型の関与が示唆されました。
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花などは短期間で経験する機械的ストレスでも、接触形態形成によって短くなることが示されました。
概要
東京都市大学 理工学部 自然科学科の福田達哉教授と大学院 総合理工学研究科の柴政幸大学院生(日本学術振興会特別研究員DC2)、原田栞里大学院生、自然科学科の在原秀真大学生は、植物の花茎が強固に形成されているものの、海岸沿いの強風環境下ではそれを短くしていることを明らかにしました。
台風やハリケーンなどの強風は、植物への大きなストレスとなります。そのストレスを低減して自生できるように、例えば葉では、葉柄を短くすることや、葉身を小さくすることで強風環境下に適応することがあります。この場合、葉とは独立に形成される花茎を持つ植物でも同じ適応を示すのか、問題となります。
そこで本研究ではこのような植物の例としてキク科植物の一種で海岸から内陸まで広く生育するツワブキ(図1)を用いて、力学的および比較形態学的解析を行いました。
力学的解析の結果、ツワブキの花茎は葉柄よりも強固であることが明らかとなりました。また、比較解剖学的解析の結果から、花茎は葉柄よりも細胞壁量が多いことが示され、さらには維管束型が異なることから花茎は葉柄よりも頑丈になっていることが示唆されました。
しかし、強固にしている花茎でも強風環境下では、葉とほぼ同じ高さにまで短くしていたために、葉に隠れるようにして花茎の損傷を形態的に回避させる戦略が明らかとなりました。葉柄は損壊しても、その都度、再度新しい葉を形成することが出来ますが、花茎は、開花から結実までの一連の成長の際に起こってしまう損壊が、翌年の花茎の成長まで待たなくてはならず、次世代を残す今年度の繁殖に大きな影響を与えてしまいます。そのために花茎は強固でありながらも強風環境下ではその長さを短くし、どんなことがあっても繁殖までつなげていく適応様式をツワブキは示したと考えられます。
今後、ツワブキ以外の植物も同様の適応方法があったのか、調査も進める予定です。今回の報告を受け、国内外で遺伝子レベルの研究が進められることも期待します。
本研究は、『Frontiers in Plant Science』オンライン版にて、8月6日 に掲載されました。
研究の背景
恒常的に吹き付ける風は、タンポポの種子の場合は利用する価値のある非生物学的要因となるものの、多くの場合、動くことが出来ない植物にとって大きなストレスとなります。そのために、いかに風ストレスから身を守るか、といった工夫が重要となります。また、海からの強い風が直接吹き付ける海岸沿いといった場所で生育する植物は、より一層工夫が必要になります。さらに、猛烈に発達した台風は植物に多くの被害をもたらすものの、台風が過ぎ去った後に、損壊や枯死することなく生き続ける植物には、何か強風ストレスを低減させるヒントがあると考えられます。
海岸沿いの植物は、汀線に近づくにつれて風の影響もあって、多くの植物が背丈を低くします。この場合、葉と花が葉柄と花茎といった別々の器官として独立に地上に出現する植物の場合、強風に対してそれらが同じように変化するのか疑問が生じておりました。
これまで植物の力学的計測は、引張圧縮試験機の中でも比較的容易な3点曲げ試験(※5)が用いられてきました。本研究ではこの3点曲げ試験によって、植物の環境適応に力学的側面からアプローチすることをツワブキの花茎と葉柄を用いて試みました。本研究ではこれらの地上部における主な支持器官である葉柄の力学的特性を3点曲げ試験を用いることで、変形しにくさを示す材料的特性の“曲げ弾性率”と、幾何学的特性の“断面二次モーメント”、構造的特性の“曲げ剛性”を解析および比較を行いました。
力学的結果においては、曲げ弾性率と断面二次モーメント、曲げ剛性の全てにおいて有意に花茎の方が大きいことが示されました(図2)。この結果は、ツワブキの花茎が葉柄に比べて材料的にも構造的にも変形しにくいことを明らかにしました。
この様な花茎の変形しにくさが強風環境での効果を明らかにするために、海岸沿いの強風環境下に生育する集団と内陸の集団の比較を行いました。その結果、強風環境下の花茎の長さは有意に内陸よりも短くなっており(図3)、さらには強風環境下では葉柄長と花茎長に相関が認められ、花茎の大部分を自身の葉に隠すくらいまで短くなっていました。
このことは、力学的に変形しにくい花茎は電柱のようにどんなに強い風でも受け入れると考えていたものの、やはり損壊リスクを低減させるために形態的に回避するように短くしていることが考えられました。葉柄は損壊しても、その都度、再度新しい葉を形成することが出来ますが、花茎は、開花から結実までの一連の成長の際に起こってしまう損壊が、翌年の花茎の成長まで待たなくてはならず、次世代を残す今年度の繁殖に大きな影響を与えてしまいます。
研究の社会的貢献および今後の展開
静岡県の三保松原が富士山世界遺産の構成資産として登録されたように、強い風が吹きつける海岸沿いでは他で見られないような独特な環境が形成されており、植物があの手この手でその環境に適応するよう変化しています。またその特徴的な形態は、近年、モデル植物を中心とし、遺伝学的研究結果が蓄積されつつある植物のボディープランの研究にも有効に使われているために、今後の具体的な遺伝子レベルの研究が期待されます。
補足
■論文情報
<タイトル>
Impact on the scape of Farfugium japonicum var. japonicum (Asteraceae) under strong wind conditions based on morphological and mechanical analyses
<著者名>
Masayuki SHIBA, Shuma ARIHARA, Shiori HARADA, Tatsuya FUKUDA
<雑誌>
Frontiers in Plant Science
<DOI>
10.3389/fpls.2024.1407127
なお、本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)「同一の遺伝子が異なる環境への適応を可能にするのか?:渓流沿いと蛇紋岩地を例に(研究代表者:福田達哉)」および日本学術振興会特別研究員奨励費「葉柄の力学的解析を用いたツワブキ類の異なる機械的ストレスに対する適応過程の解明」の助成をうけて実施されました。
用語解説
(※1)葉柄(ようへい)
葉の一部で、葉の主要部である葉身(ようしん)と茎を連絡する柄(え)の部分。葉身をささえ、茎と葉身間の水分や養分の通路となる。植物の種類によっては葉柄が無い葉もある。
(※2)植物の強風による機械的ストレスにおける接触形態形成
被子植物の多くで形態的な変化が知られており、本研究で用いたツワブキに関しては、著者らが以下の文献で、強風環境下における葉身サイズの縮小化や葉柄の短小化を報告している。
Masayuki SHIBA, Tsukumo MIZUNO, Tatsuya FUKUDA (2023) Effect of strong wind on laminas and petioles of Farfugium japonicum (L.) Kitam. var. japonicum (Asteraceae). Frontiers in Plant Science 14 :1182266. DOI: 10.3389/fpls.2023.1182266
(※3)花茎(かけい)
草本植物で葉をつけずに先端に花をつける茎のこと。このような植物の場合、葉は根から直接形成され、根出葉(こんしゅつよう)と呼ばれる。
(※4)ツワブキ
ツワブキは、キク科ツワブキ属に属する常緑多年草であり、学名はFarfugium japonicum var. japonicum。海岸近くに生育し、初冬に黄色い花を咲かせる。園芸植物としても広く流通している。
(※5)3点曲げ試験機
供試体(ここでは茎や葉柄)を載せる2つの下部端子に対して任意の支点間距離を設定し、中央部に上部端子を等速で下降させ供試体の変位量に伴う荷重を計測する強度試験。
<取材申し込み先>
企画・広報課(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)