森の中の「エコ・キャンパス」は「自然と共存していく」意思表明

学内の約3割が保全林、持続可能な社会に「本気」

気候変動の主な原因が人間の活動であると明らかにされた今、持続可能な社会の実現にはいっそう関心が寄せられている。環境への意識と取り組みは、経済、教育、生活のすべてにおいて欠かせないものとなった。一方、25年前からキャンパスや大学運営に環境マネジメントを取り入れてきた大学がある。東京都市大学だ。国内の大学としては初めてISO14001の認証を受けるなど、SDGsが注目される前からの先進的な取り組みと教育内容に迫った。

25年前から育て続ける、企業を中から変える人材

 横浜市営地下鉄の中川駅から閑静な住宅街を歩くこと約5分。こんもりとした森が現れた。そう感じるほど濃密な緑に囲まれているのが、東京都市大学の横浜キャンパスだ。
 正門から敷地内に足を踏み入れると、まさに緑に包まれた感覚になる。それもそのはず、敷地の約28%を森が占めているのだ。校舎の間のビオトープではメダカが元気に泳ぎ回り、あちこちに6種類に分別できるゴミ箱が置かれるなど、エコ・キャンパスの呼び名にふさわしい。現在、環境学部とメディア情報学部の学生が学ぶ横浜キャンパスは、1997年に設立されると、翌年国内の大学として初めて、環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」の認証を受けた。同大の環境学部長を務める、史 中超教授はその背景をこう語る。

「創立から1996年までの間、本学は工学部中心の大学でしたが、90年代、環境に配慮した持続可能な開発というキーワードが注目され始め、環境情報学部(※)を新設することに。キャンパスは緑豊かな横浜に決めました。その建設計画と時を同じくして社会で議論されていたのが、ISO14001です」

当初、ISO14001は「企業向けの規格」と認識されていたという。

「しかし、当時の企業の最重要課題は経済的成長であり、環境保護に向けた活動はなかなか進みませんでした。本学は、『企業が社会的責任を果たすには人材が必要。企業を中から変える人材を育てよう』と考え、ISO14001の認証取得を目指したのです」

キャンパスが保有する保全林の一角で
キャンパス設計には建築学科の教授陣が自ら携わった
環境と学問を見事に両立したキャンパス。設計に教員自ら携わったことは、同大の教育に説得力を持たせる。

 キャンパスは、当時工学部の教授らがチームを編成し、教育・研究環境を保ちつつ自然に配慮できる校舎を、自分たちで設計した。その工夫は、現在も校舎の随所に見られる。
例えば、窓に庇を設けて、室内を明るくしつつも直射日光を遮蔽し、冷房用電力を抑える。トイレや廊下などの照明はセンサーで自動化し、消し忘れを防ぐ。窓をペアガラスや特殊コーティングの断熱ガラスにして、暖房用電力も抑えられる。

校舎の外にも工夫が。樹木や植物への水やりには地下貯水槽の雨水を使用。キャンパス内のアスファルトを透水性にすることで、外部への排水も抑えている。

「これまで人間は、どんどん自然を壊して都市をつくり、拡大してきました。しかし、このスタイルはすでに限界です。われわれのキャンパスは、本学の『自然と共存していく』という意思表明そのものです。実は、ISO14001には3年に一度大きな審査があります。審査はかなり厳しくて負担も大きいですが、だからこそ、本学の教職員も学生も、省エネや省資源をつねに意識して行動しています」

加えて、エコ・キャンパスにはさらなる役割がある。

「敷地の約3分の1を占める森林は横浜市との協定緑地になっており、ビオトープは約200種類もの動植物の生息地です。これらは、フィールドワークを含む種々の研究でも活用しています」
キャンパス内で日常的にフィールドワークができることは、コロナ禍での学びにおいても大きなアドバンテージだ。最近では、天然芝と人工芝を組み合わせたハイブリッド型の芝生の実験を行っており、こうした成果をいずれ「都心はもちろん、世界に広めたい」と話す。

自然と都市が調和した環境を構築できる人材を育てる

 キャンパス誕生時から変わらず受け継がれている特徴的な取り組みが、ISO学生委員会だ。

「学生有志で組織されたISO学生委員会は、日々の電力消費量や省資源の状況のチェック、資源回収などを行っています。ほかにも環境ISOフォーラムの主催や、地域住民を対象としたエコキャンパスツアーも実施。学生の多くが環境に強い関心を持っていますが、ISO学生委員会は彼らを率いる存在です。環境問題の現場に出てリーダーシップを発揮した経験は、将来、環境の専門家に限らず、おのおのの企業で応用できます。組織が持続可能な社会を考える際に、本学の卒業生の知見はきっと役立ちますよ」

 地域住民に向けたエコキャンパスツアーは、社会に対する同大のメッセージでもある。

「環境問題は、気候変動や貧困問題など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。個別の問題だけを見ていては一向に解決できない。だからこそ、みんなで情報を共有し、行動することが重要です。本学の取り組みを見て持ち帰っていただくことで、何かのきっかけになればうれしいですね」

 今、環境学部が目指しているのは、グローバル意識を持って自然環境と都市環境が調和した社会を構築できる人材の育成だ。四半世紀にわたって、自ら環境を考え、行動する学生を育ててきた東京都市大学。SDGsの実践が全人類に求められる時代、その取り組みはますます注目を集めるだろう。

※2013年、環境学部とメディア情報学部に改組

  • 週刊東洋経済 2022年1月22日 掲載広告 
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