教員の海外派遣
長期研修報告書
2024年5月
理工学部 機械システム工学科
講師 土方 規実雄
このたび、教員特別長期研修制度を利用して一年間の研修を行った。2023年4月1日から9月30日の期間は曽祢奨学基金、10月1日から3月31日の期間は教員特別長期研修制度によって、オーストリアのJohannes Kepler University Linz(JKU)に Invited researcherとして滞在し研修を実施した。
滞在先であるJKUはオーストリア第三の都市Linz北東部にある大学である。Linzはドナウ川に沿った人口20万人の都市であり、大学の周りは自然が豊かで非常に生活がしやすい地域であった。大学からトラムに乗り20分程度で市の中央広場に出ることができる。中央広場周辺はヨーロッパの街らしい伝統的な街並みが残っており、週末には大きなイベントや蚤の市が開催されていて非常に活気がある。
私は電気駆動・パワーエレクトロニクス研究所(EAL)のInvited Researcherとして、同研究所に一年間滞在して研究活動に従事した。JKUの中には複数の研究所があり、EALもその一つである。Science Parkと呼ばれる研究所内はアットホームな雰囲気で研究グループの垣根を越えて協力・協同が可能な環境が整っている。教育スタッフの他にも技術スタッフが数多く在籍しており、それぞれが実験装置や解析ソフトウェアのエキスパートで、迅速かつ的確なサポートが受けられる。また、学内にはスポンサー企業の看板が立ち並び、活発に産学連携が行われているようであった。
オーストリアは移民の多い国家であり、JKUも在籍する学生の十数%が留学生である。そのため、大学の付近や市内に大きな国際学生寮が複数あり、私も最寄りの国際学生寮であるJulius Raab Heimに単身者用の部屋を借りて滞在した。学生寮にはレストランがあり、ヨーロッパの色々な料理が日替わりで提供されていた。オーストリアの料理は地域によって差があるが、リンツ周辺は南ドイツに似た料理が多いようだった。学生向けのレストランだったため質より量が重視され、肉の上にチーズと肉が載っているような料理が山盛りで提供されていた。
本研修の期間における主な研究内容は、超高速アプリケーション向けのモータとして提案している増速形バーニアモータの構造最適化や、同モータの高速回転時の摩擦損失を低減するための磁気浮上技術の適用であった。磁気浮上が専門であるEALの副所長のWolfgang Gruber教授のアドバイスによって新しい磁気浮上電動機の構造を提案することができた。前者についての成果は米国電気電子学会(IEEE)が主催するAPEC2024で発表することができた。また、本研修において提案した後者の磁気浮上電動機の構造最適化のテーマは2024年度の日本学術振興会の科学研究費助成事業に採択された。
今回の研修を通して、研究面において大きく飛躍をすることができたと感じている。また、様々な国籍やバックグラウンドの人たちと交流することで、それぞれの国や文化について一端を知ることができたとともに、日本の良い面・悪い面を再認識するきっかけとなった。これらの経験を今後の研究・教育活動に活かしていけたらと思う。
2023年
2023年5月
理工学部 機械システム工学科
准教授 永野秀明
このたび、教員特別長期研修制度ならびに曽祢奨学基金により、1年間の研修に臨んでまいりました。そのうち、2022年9月3日~2023年3月2日は中国の同済大学においてHigh level researcherとして滞在し、そのほかの期間は国内で研究に取り組みましたので、以下に報告いたします。
当初は2022年度初めから渡航する計画であったが、新型コロナウイルスの流行状況が改善せず、また中国側の外国人受け入れ規制も緩和されなかったため、実際に渡航するまでの期間は国内で研究活動に従事した。その間の研究テーマとしては、ウイルス対策として紫外線殺菌装置を用いることで、冬季の窓開け換気を抑制することができることを数値シミュレーションにより示した。
中国ならびに受け入れ大学(同済大学)側の申請が承認された後、2022年9月3日に中国に渡航することができた。同済大学は、中国における理工系大学の上位大学である。近年では発展が著しい中国において問題視される環境・エネルギー問題に関する研究が活発に行われている。「2020年QS世界大学ランキング」 によると、同済大学は中華人民共和国国内で9位に、また「2022年QS世界大学ランキング研究分野別」によると建築学分野では世界13位、土木分野では世界20位に位置している。
滞在当初は、ゼロコロナ政策のために多くの厳格な規制が行われており、大学へ入構する際には過去24時間以内のPCR検査結果を求められるうえ、健康状態の申告や体温計測までもが必要とされるなどしていたため、構内には教員・学生は多くはいなかった。
研究室には修士学生3名および博士学生1名が在籍していたが、博士課程学生はその後フィンランドへ留学したことと、コロナ対策中であったこととあわせて、研究打ち合わせはオンラインで実施された。
渡航中には新たな研究テーマに着手し、建物設備の活用による省エネ・低炭素化効果を設計段階で簡易に予測するための推定法の開発に取り組み、日中両国の建物に適用することで、両国の建物特性を比較した。
図らずしもコロナ禍によってZoomなどのコミュニケーションツールが発達したため、日本における共同研究を継続することができた。日本にある計算サーバーにリモートアクセスして数値シミュレーションを実施し、その成果はZoomによって共同研究先に報告した。
日常生活では電子決済が普及しており、街中の買い物や外食の際にはほぼすべてスマホアプリで完結することから、非常に便利であった。一方で、図らずしも現地の方々と会話する機会は最小限となってしまった。そこで、ウェブ上の中国語学習サービスを利用して、第二外国語としての中国語学習に取り組んだ。数単語レベルでの発話がやっとではあったが、それでもわずかながら中国語で会話をすることができたこともあった。
この度、教員特別研究制度のおかげで、貴重な機会を得ることができました。この成果は、今後の論文投稿の形での成果発表や、新たな国際共同研究の着手などの形で本学の発展の一助としたいと思います。
2020年
2020年4月
理工学部 機械システム工学科
准教授 熊谷正芳
2019年4月から2020年3月の約1年間に渡り、英国のマンチェスター大学(The University of Manchester)において、学内の長期研修制度を利用して研究活動を中心とした研修を行った。同大学は英国の国立大学で2004年10月、マンチェスター・ビクトリア大学(Victoria University of Manchester)とマンチェスター工科大学(UMIST:University of Manchester Institute of Science and Technology)が統合して誕生した大学であり、学生数は約4万人と英国の大学の中では最大規模である。都市型大学であるという点に加え、マンチェスターの街の個性とも関連すると思われるが、同大学のキャンパスは伝統的な建物を残しつつも全面がガラス張りなど近代的な作りの建物が多いことも特徴的であった。
受け入れてくださったのはPhilip Withers教授で、Withers教授はDepartment of Materialsの教授であると同時に、マンチェスター大学内に本部機能が置かれる英国の国立研究所Henry Royce InstituteをChief Scientistとして率いている。同研究所は材料科学分野の研究所であり、マンチェスター大学内には材料の3次元解析のためのX線CT装置などが多数置かれ、その研究に関わるスタッフが在籍し、欧州における中心地となっている。この研究グループの対象材料は金属や複合材料といった機械・構造材料が中心であるが、生物や生体材料、文化財の測定・分析なども行っている。グループメンバーはいわゆる材料分野の研究者のみならず、解析手法・ソフトの開発のため数学者など幅広いバックグラウンドを持つ研究者が在籍していることも印象的であった。私はここでX線や電子顕微鏡を用いた金属材料の強化機構に関する研究に取り組んだ。(研究内容の詳細は本報告公開の性質に鑑みてここでは割愛します。)
また、マンチェスター大学には多くの教授・講師陣が在籍しており、学内・学科内において研究についての議論を行うことができる環境はとても魅力的であった。
英国・マンチェスターでの暮らしについても少し触れたい。私はマンチェスターの中心からバスで30分ほど離れた閑静な郊外の町に住んでいた。道には街路樹があり、家々の前には芝生の庭があり、緑豊かであると同時にスーパーやパブ、レストランなども多数あり、生活に不便もなかった。地元マンチェスターのフットボールチームであるユナイテッドやシティの試合のある日のパブは人で溢れ、大いに盛り上がっていた。現地の方々は日本で昨今言われるワークライフバランスの取れた豊かな生活を送っている様に感じた。
今回の研修を通して、研究面はもとより、外国に長期滞在また日本人以外に囲まれて生活・仕事をするという貴重な経験を積むことができた。“日本では”、“海外では”、などと頭ではわかっていても実際に体験するのとは大違いであることも改めて実感した。ビザのトラブルに見舞われたり、コロナウイルス禍の中の帰国となったりと、波乱に富んだ留学経験となったが、その分密度の濃い経験ができ、今後の教育研究および自身の人生において貴重な糧となるものと感じている。
末筆ながら、長期研修の機会をいただいたことに厚くお礼申し上げます。