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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)工学部 電気電子通信工学科の岩尾 徹教授は、鉄道車両のパンタグラフ等が離線することに伴う「アーク放電」の現象を解明し、これらを防ぐための精密な3次元シミュレーション技術を開発しました。
「アーク」は温度が5000℃以上で強い光を発するという特徴があり、「離線アーク放電」に伴う架線トラブルは、復旧に長時間を要します。今回、5年をかけて開発した3次元シミュレーション技術では、分子、原子、イオン、電子のレベルで、同放電現象を精密かつ短時間にシミュレーションすることができます。
これにより、架線トラブルによる運転見合わせや事故の発生を低減できるほか、架線の溶損を抑えることでメンテナンスコストの低減を図ることが期待されます。
なお、この研究成果は、2019年10月28日から米国テキサス州で開かれた米国物理学会主催「第72回気体電子工学年次会議(GEC)」で31日に口頭発表しました。
本研究のポイント
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離線アーク放電を、分子、原子、イオン、電子のレベルで3次元電磁熱流体シミュレーションが可能です。
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トロリー線やパンタグラフのすり板などで生じる、周囲からの風、電極が蒸発した時に生じる金属蒸気、電極からのジェット、電気配線からの磁界といった外乱を考慮した3次元電磁熱流体シミュレーションが可能です。
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研究室がオリジナルに開発したプログラムであることから、市販品では実現不可能なリアルスケールの精密な放電シミュレーションを短い計算時間で行うことが可能であり、物理現象を解明することができます。
概要
鉄道における離線アークは、パンタグラフの溶損による架線やパンタグラフの事故、アーク長の増加による地絡事故などを引き起こすことが知られています。この現象を解明し、事故低減を図るため、リアルスケールでの離線アークの3次元電磁熱流体シミュレーション手法を開発しました。
具体的には、3次元電磁熱流体シミュレーションにより、パンタグラフおよび架線における離線アークの振る舞い、ならびにアークによる材料の損傷を明らかにしました。
このことにより、離線アーク放電を、分子、原子、イオン、電子のレベルで3次元電磁熱流体シミュレーションをすることができます。また、トロリー線やパンタグラフのすり板などで生じる、周囲からの風、電極が蒸発した時に生じる金属蒸気、電極からのジェット、電気配線からの磁界といった外乱を考慮した3次元電磁熱流体シミュレーションをすることができます。さらに、研究室がオリジナルに開発したプログラムであることから、市販品では実現不可能なリアルスケールの精密な放電シミュレーションを短い計算時間で行うことができ、物理現象を解明することができます。

出典:以倉,早坂,岩尾:接点開離時のアーク長およびその挙動解明のための基礎検討,鉄道総研報告,Vol.33 No.6,2019年6月
研究の背景
従来、岩尾研究室では、円筒座標系と呼ばれる2次元空間において、電磁熱流体シミュレーションを行ってきました。対称な空間や物理現象であれば、2次元でもよいことから、このシミュレーションでも多くの研究成果を上げてきましたが、実現象は、より複雑であることから、シミュレーションを基にした設計開発は困難でした。
また、当研究室の理念は、「人の上に立つのではなく、人の前に出る人間に。」であり、社会を変革するリーダーを育てることを目標としていることから、目先の成果だけでなく、従来とは異なるアプローチで、研究に取り組むことが必要であると考え、プログラムを一から構築しなおし、3次元化を図りました。3次元化には、5年の歳月を要しましたが、この要素技術を開発したことにより、共同研究の相談や依頼が殺到しております。これは、パソコンの性能や可視化ソフトの性能が飛躍的に向上したことに加え、目先の成果にとらわれず、当研究室がその理念に基づきオリジナルで開発したプログラムであることによります。
研究の社会的貢献および今後の展開
本成果を発展させることで、架線トラブルを低減することができ運転見合わせを減らすことができるほか、架線の溶損を抑えることでメンテナンスコストの低減を図ることができます。昨今、塩害や霜による架線トラブルや火災もあり、さらには、従来よりも断面が小さいトンネルでの架線トラブルも起こりえます。この対策のためにも、各種外乱を考慮できる3次元電磁熱流体シミュレーションによる物理現象の解明は、必要不可欠です。
今後は、鉄道車両や電力供給などを含めた統合的なシミュレーションへの導入を図っていく予定です。また、本知見は、電力用のガス遮断器、真空遮断器、空気遮断器の設計や開発にも応用可能であり、さらに、金属加工、照明、廃棄物処理、その他への適用範囲が広いことから、様々な研究所や企業との共同研究も進めていく予定です。
なお、本成果の一部は、2019年10月28日から米国テキサス州で開かれた米国物理学会主催「第72回気体電子工学年次会議(GEC)」で31日に口頭発表しました。http://www.apsgec.org/gec2019/index.php
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)