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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)メディア情報学部 社会メディア学科の岡部 大介教授と同情報システム学科の大谷 紀子教授は、人工知能(AI)が人間の創作活動に加わることで、より円滑な創作活動が実現できることを明らかにしました。
近年、急速な進化を遂げるAI技術は、自動運転やロボット等における活用だけでなく、人間の創造的な学習の文脈においても重要な役割を担うことが予測されます。
今回、音大生らがAIを用いた作曲実験を行った結果、疲れを知らないAIによる作曲と、人間による手直しを通した創造的な協調を通して、人間にとって心地よい楽曲を制作することができると示されるともに、AIの存在は人間の創作意欲を引き上げる効果があり、さらには複数人で行う創作活動の円滑化を図る可能性もあることが明らかになりました。
今後は、一般の人も自らAIで作曲できるよう、さらなる研究を進めていく予定です。なお、これらの研究成果は日本質的心理学会、教育システム情報学会で発表し、このほど日本質的心理学会で発表した「アーティストと人工知能技術の共同作曲に見る創造と省察」が、2020年の同会 論文賞を受賞しました。
本研究のポイント
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AIが人間の創作意欲を引き上げる効果があることを確認。
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人間同士の創作活動にAIが加わることで、コミュニケーションの向上による円滑な創作活動に期待。
概要
東京都市大学メディア情報学部社会メディア学科の岡部 大介教授は、同情報システム学科の大谷 紀子教授、シンガーソングライターの白井 大輔氏、洗足学園音楽大学の学生の協力を得て、「人工知能(AI)は人の行動を助ける道具として有効であり、将来的にも人を支配することはなく、むしろ両者の協調で新しいものが生み出されるだろう」という“明るい”結論を実験結果から導きました。
既存の楽曲をAIで混合し、新しい曲を作曲するという実験を行った結果、AIの楽曲は人間(作曲者)の創造性を刺激し、そしてAIの作曲に人間が介在することを通して、人の感性に訴える曲が作られうることが分かりました。感情を持たないAIは、評価を気にせず、既存の楽曲をもとに作曲しますが、すべてをAIに任せた場合、音楽の評価に厳しい音大生やミュージシャンには満足のいかない「イマイチ」の曲も数多く生成されました。
「2045年にAIが人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)を迎える」という予想もありますが、将来的にも創造的な活動の主体は、人とAIの協調のあいだにあると考察します。
実験は、既存の楽曲約50曲とAIを使って行いました。音大生がある状況を思い浮かべ、それに合う楽曲を2、3選定し、それらをAIが混合することで作曲を行いました(図2)。最初は、思い浮かべた状況にそぐわない「イマイチ」の曲も数多く生成されましたが、学生がこれまでに学んだ様々な音楽理論を動員して修正を加えることで、満足できる作品に仕上がりました。
この実験は、アーティストや学生の創作意欲を引き上げる効果も認められましたが、残念ながら人とAIのコラボレーションにより、人の感性に響く曲ができたとしても、褒められるのは人間に限られることから、岡部教授らはこれを「AIの悲哀(悲AI)」と呼びました。なお、学生とAIが作曲した作品は、2019年11月の洗足学園音楽大学の学園祭「洗足学園フェスティバル」で発表されました。(発表の様子:https://www.youtube.com/watch?v=ThuYsGtN9Lg)
またこれらの研究結果は、日本質的心理学会、教育システム情報学会で発表しており、このほど日本質的心理学会に発表した「アーティストと人工知能技術の共同作曲に見る創造と省察」が、2020年の論文賞を受賞しております。
研究の背景
近年、人間の創造的な活動の文脈に、さまざまな技術が参与することが増えつつあります。コンピュータの利用教育に関する研究や認知科学における創造的な学習の研究では、社会的な視点が重要視されてきました。社会的な視点とは、人の頭の中のみでなく、他者やコンピュータをはじめとする人工物を含めた状況のなかで学習を捉えようとするものです。
一方、新しい技術が教育や労働の現場に取り入れられることで、学習や仕事のやり方、専門性が変化したりすることは、さまざまな領域で確認されています。すなわち、学習は学習者の置かれた状況に応じて変化するといえます。また、これに加え、昨今のAI技術の発展や応用分野の拡大を鑑みると、AIは今後、人間の創造的な学習の文脈において、重要な役割を担うと予測されています。このことから、今回、「楽曲制作」に焦点をあて、AIが人間の創造的な活動にどのように関与するのかを明らかにしました。
研究の社会的貢献および今後の展開
今後、人間どうしの創造的な活動がなくなることはありません。ただし、創造的な活動にAIが参加する機会は増えてくると予想されます。楽曲制作において、人間同士で作曲した「イマイチ」な作品にとやかく言うのははばかられるものの、空気を読まずに振る舞うAIが人と人の間にいてくれることで、円滑な創作活動の実現に役立つことが期待されます。
今後は、音楽を専門的に学んだ経験のある人たちだけではなく、「ふつうの人びと」が、自分の好きな楽曲を入力して、AIとともに自分好みの曲を創造することができるよう、さらなる研究を進めていく予定です。
共同研究者
東京都市大学 メディア情報学部 情報システム学科 教授 大谷 紀子
シンガーソングライター 白井 大輔氏
洗足学園音楽大学 学生(実験当時)
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)