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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)建築都市デザイン学部 都市工学科の秋山 祐樹准教授は、全国自治体の将来の空き家率を予測する技術(マップ)を開発しました。
近年、少子高齢化や相続などの問題から、空き家が年々増加傾向にあり、建物の老朽化や管理放棄が近隣住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしています。我が国では空き家等対策の推進に関する特別措置法の制定や、空き家の適正管理と有効活用に関する情報発信、実態調査など、さまざまな対策がとられていますが、現段階で空き家調査の効率的な手法は確立されていません。
今回開発した技術(マップ)は、総務省が実施し、オープンデータとなっている「国勢調査」と「住宅・土地統計調査」を活用するもので、市区町村ごとの人口動態や空き家率などの情報を機械学習によって解析することで、実態調査が行き届かないエリアを含めた全国の現在と将来(2018年、2023年、2028年)の空き家率を予測することが可能です。
・空き家予測マップ
https://www.akiyamap.jp/wp/
今後は、より細かな単位で予測できるよう精度の向上を図り、商業利用に向けた提供を検討していく予定です。なお、これらの研究成果は、2023年3月に開催された日本地理学会春季学術大会で発表しました。
本研究のポイント
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市区町村ごとの過去から現在にかけての人口動態や空き家数の変遷をAI(人工知能)に学習させ、市区町村ごとの将来(2028年)の空き家率の増減を予測する技術を実現。
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既存統計で空き家の調査が行われていない自治体においても、AIによる予測を適用することで、これまで空き家の動態が未知であった自治体の空き家率を予測することが可能になった。
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ソースデータはオープンデータである政府統計(国勢調査、住宅・土地統計調査)であるため、今後も将来に亘って整備・更新が可能。
概要
日本全国同一の基準でオープンデータ(※1)として整備・更新され続けている政府統計(国勢調査、住宅・土地統計調査(※2))から得られる市区町村ごとの人口動態や空き家率などの情報をAI(機械学習)により解析し、日本全国の自治体の現在と将来(2018年、2023年、2028年)の空き家率を予測する技術を開発しました。この技術は高い予測精度(市区町村ごとの8年後の空き家率を予測する場合の相関係数が0.9026、平均誤差が1.96%)を有しており、また政府統計で調査対象外の自治体にも外挿(※3)することが可能です。国内で初めて全国全ての自治体をカバーする将来の空き家率マップの整備が実現しました。本成果が産官学民で幅広く活用されれば、我が国の空き家対策を促進できると期待しています。本成果の活用を促すため、将来の空き家率マップをWebGIS(※4)で閲覧できるウェブサイトを開設しました(図1)。

図1.現在公開中の将来空き家率マップ(https://www.akiyamap.jp/wp/)
研究の背景
近年、日本全国で空き家が増加し続けています。そこで、我が国は「空家等対策の推進に関する特別措置法」を制定し、全国の自治体に対し空き家の分布状況の把握を努力義務と定め、空き家対策の取組を進めています。しかし、空き家調査の効率的(迅速・安価・継続的)な手法は未だ確立されていません。また、人口規模が小さい自治体においては政府統計(住宅・土地統計調査)の調査対象外となっているため、将来のみならず現在の空き家数も未知の状態が続いています。さらに、空き家の将来分布予測は、研究代表者らによるこれまでの複数の自治体へのヒアリングの結果、高い需要があることが分かっているものの、現時点でその手法は研究レベルでも殆ど確立されていない状況にあります。これらの情報が明らかになることで、国レベルから地方自治体レベルに至るまで、将来を見据えた空き家に関する対策の策定・実施の推進を大いに支援できるものと期待されます。
研究の社会的貢献および今後の展開
<研究成果の社会的貢献>
本成果は既存統計のみを用いてデータの整備・更新が可能なため、その継続性と横展開性(全国展開)が極めて高いのが特徴です。そのため、本成果は、我が国の国レベルから地方自治体レベルまでの空き家問題の解決に、今日だけでなく将来に亘って大きく寄与できることから、その社会的貢献性は極めて高いと言えます。また、空き家問題は今後、少子高齢化に直面する先進各国やアジア諸国でも顕在化するものと考えられており、本研究の手法はこれらの地域でも適用できる可能性が高いため、将来的には国内だけでなく海外での適用も期待される拡張性を有するものと期待しています。
<今後の展開>
現時点では、市区町村単位の結果となっていますが、今後は政府統計のミクロデータを使用することで、より細かい単位(大字や町丁目などの小地域単位)での予測技術に拡張することを予定しています。このレベルまで粒度が高くなることにより、市区町村間の比較だけでなく、同じ自治体の中でも対策の緊急性が高い地域を把握することが可能になり、緊急性の高いところから順次対策を施していくなどの、より具体的な空き家対策の推進につながるものと期待しています。また、本研究の成果は非商用利用(研究利用)向けには原則無償での提供を予定しており、今後は商用利用(法人等)向けの提供方法についても検討を進める予定です。
補足
本研究は東京都市大学総合研究所デジタル都市空間情報研究開発ユニット(ユニット長 秋山 祐樹准教授)による成果。
・東京都市大学総合研究所デジタル都市空間情報研究開発ユニット
https://www.arl.tcu.ac.jp/research/digital-urban-spatial.html
・現在公開中の将来空き家率マップ
https://www.akiyamap.jp/wp/
用語解説
※1 オープンデータ:
誰でも自由に利用、再利用、共有できる形式で公開されたデータのこと。国や研究機関、非営利団体などが生成したデータを含む。本研究で使用した国勢調査や住宅・土地統計調査もオープンデータの1つである。
※2 住宅・土地統計調査:
総務省統計局が5年に1回の頻度で実施している統計調査で、日本国内の住宅や土地の利用状況、所有形態、住宅の構造、家計の所得などに関する情報を収集することを目的とした統計調査である。調査対象となる自治体は日本全国全ての市と、人口1万5,000人以上の町村である。
※3外挿:
統計学やデータ解析において、既知のデータや情報をもとに、その範囲外の値や情報を予測・推定する処理のこと。
※4 WebGIS:
GIS(地理情報システム ※5)の機能をウェブブラウザ上で利用できるようにすること。ユーザーが簡単に地理情報にアクセスし、操作できる環境を提供する。これにより、地理情報に関連する様々な業務や活動をオンライン上で行うことを可能にする。
※5 GIS(地理情報システム):
地理空間データを収集、管理、分析、可視化するためのシステム。地図や位置情報を活用して問題解決や意思決定を支援するために使用される。
共同研究者
何れも東京都市大学総合研究所デジタル都市空間情報研究開発ユニットの研究メンバーである。
一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科 特任准教授 馬塲 弘樹
和歌山県データ利活用推進センター 副主査 音喜多 智
総務省統計局統計データ利活用センター センター長補佐 明石 洋祐
前橋市未来創造部未来政策課 課長 髙橋 良祐
<取材申し込み先>
学長室(広報担当)(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)