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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)理工学部 電気電子通信工学科 石川亮佑教授は、エネルギー変換効率(以下、変換効率)が30%に迫る、曲げられる「ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」の作製技術を開発しました。
近年、変換効率の向上に向け、異なる種類の太陽電池を重ね合わせて発電する「タンデム型太陽電池」(※1)の開発が世界的に加速しており、ペロブスカイトとシリコン型の組み合わせでは、30%以上の変換効率が達成されています。一方、通常この組み合わせでは、ボトムセルに200μm程度の厚さがあるシリコンウエハーを用いるため、ペロブスカイトの特徴である薄くて曲がるという特性(フレキシブル性)が活かされないことが課題となってきました。
今回開発した作製技術は、ボトムセルであるシリコンヘテロ接合太陽電池(※2)のシリコンウエハー厚を83μm程度まで薄くするもので、これにより「ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」にフレキシブル性を付加するとともに、軽量化も達成し、従来の太陽電池では設置困難だった場所(湾曲屋根やビル壁面など)への設置を可能にします。また、エネルギー変換効率の面でもセル面積1cm2において26.5%を達成し、従来のペロブスカイト太陽電池以上の高効率化を実現しています。
今後は、界面パッシベーションの改善や両面受光構造の導入により、さらなる変換効率の向上が得られるとみています。なお、本研究成果は、2023年9月18日にポルトガルのリスボンで開催された国際イベント40th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition (EU PVSEC 2023)にて、発表しました。
本研究のポイント
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世界初、「軽くて曲げられるペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」を開発(84μmで26.5%のエネルギー変換効率を達成)
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結晶シリコン太陽電池の表面マイクロテクスチャ上に、ペロブスカイト太陽電池(※3)を塗布法で作製
概要
東京都市大学の石川亮佑教授は、齊藤公彦特別研究員と共に結晶シリコンウエハーの厚さを薄くしても性能が高いシリコンヘテロ接合太陽電池を作製し、その上にペロブスカイト太陽電池を積層化することで、「軽くて曲げられるペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」を開発しました。
30%以上の高い変換効率が報告され、注目されているペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池は、通常厚さが200μm程度のシリコンウエハーを用いるために曲げることができません。新たに確立したプロセスにより、シリコンウエハーを曲げられるほど薄くしつつも、20%を超える高効率なシリコンヘテロ接合太陽電池を開発しました。
さらに、この薄型シリコン太陽電池の上にペロブスカイト太陽電池を積層化して軽量・フレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池を作製することに成功しました。トップ側のペロブスカイト太陽電池は厚さ1μm程度で、今回作製したボトム側のシリコン太陽電池の厚さは83μm程度のため、タンデム太陽電池にしても写真のとおり曲げることができます。ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池に「曲げられる」付加価値を持たせた例は世界的に見ても初めてであり、新しい市場への展開が期待されます。また、セル面積1cm2において変換効率26.5%を達成しました。
界面パッシベーションの改善や、両面受光構造の導入により更なる効率向上が見込め、最終的には35%以上の高効率を目指しています 。
研究の背景
ペロブスカイト太陽電池は、既に25%以上の高い変換効率が報告され、軽量・フレキシブルな次世代太陽電池として近年脚光を浴びています。更なる高効率化のアプローチとしてタンデム化への期待も大きいですが、様々な組み合わせが提案されている中でも最高効率が示されているペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池はフレキシブル性を失うという短所がありました。
本研究では、タンデム型太陽電池のボトムセルとして曲がるほど薄いシリコンヘテロ接合太陽電池を開発して、軽量・フレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池の実現を目指しました。
本研究における技術的ポイントは①表面ミラー/裏面テクスチャ構造を有する薄いシリコン基板を作製するプロセスの確立、②そのシリコン基板のミラー表面に光閉じ込めのための比較的サイズが小さい凹凸を形成し、高性能なボトムセルを作製すること、③そのボトムセルにおける表面凹凸の上にペロブスカイト太陽電池の特徴の一つである塗布といった簡便な工程により綺麗にペロブスカイト層を堆積することが挙げられます。
研究の社会的貢献および今後の展開
軽量・フレキシブルな高効率太陽電池は、重量的制約から設置できない工場などの屋根や、湾曲のある屋根やビル壁面など従来の太陽電池では設置が困難だった場所に設置が可能であり、特に、用地の確保が難しい都市部での展開が期待されています。また、電気自動車(EV)などの移動体や飛行体など新市場への展開も期待されます。
今後は、界面パッシベーションの改善や、両面受光構造の導入により更なる高効率化と高耐久化を目指します。さらには、ペロブスカイト太陽電池の大面積形成プロセスの開発により、実用化へのポテンシャルを示します。
補足
本研究成果は、2023年9月18日にポルトガルのリスボンで開催された太陽電池に関する欧州の国際イベント40th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition (EU PVSEC 2023)にて、発表しました。
本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP20015)の結果得られたものであり、関係各位に感謝いたします。
用語解説
※1 タンデム太陽電池:
異なるバンドギャップ(吸収できる光の波長域に対応)を有する太陽電池を複数組み合わせることで、単一半導体材料では成しえない高い変換効率を実現する太陽電池です。一般的に短い波長の光で発電する材料を光入射側(トップ)に、長い波長の光でも発電する材料を裏面側(ボトム)に重ねます。本研究においてはトップセルがペロブスカイト太陽電池で、ボトムセルがシリコンヘテロ接合太陽電池に対応します。
※2シリコンヘテロ接合太陽電池:
単結晶シリコンを用いた太陽電池のうち、アモルファスシリコンなど異種材料とpn接合を形成する太陽電池です。非常に高い変換効率が得られる、低温で形成可能、薄型化が可能、両面受光構造が可能といった特徴があり、今後市場の拡大が期待されています。
※3 ペロブスカイト太陽電池:
ペロブスカイト型結晶を用いた日本発の新しい太陽電池です。現在注目されているペロブスカイト材料は鉛などの金属原子とヨウ素などのハロゲン原子、有機物を組み合わせてできています。高効率が得られる、塗布形成が可能、低温で形成可能、バンドギャップ(吸収できる光の波長域に対応)を変調可能といった特徴があり、次世代太陽電池として非常に期待されています。
<取材申し込み先>
学長室(広報担当)(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)