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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:野城智也)理工学部自然科学科の中島保寿准教授らの研究グループは日本最古のウミガメ類となる骨化石を、鹿児島県の約1億年前の地層から発見しました。
このたび、中島准教授と大阪市立自然史博物館外来研究員の宇都宮聡氏(発見者)の研究グループは、鹿児島県長島町獅子島の中生代後期白亜紀初期(約1億年前)の地層から、日本および東アジアにおいて最古となるウミガメ類(ウミガメ上科)の骨化石を発見しました。
世界最古のウミガメ類の化石は前期白亜紀の南米の地層(約1億3500万年前)から発見されています。その後、後期白亜紀(約1億500万年前〜約6600万年前)の間に、ウミガメ類は世界中に分布するようになりました。しかし、後期白亜紀初期のウミガメ類の化石はまだわずかしか発見されておらず、東アジアを含む北太平洋沿岸での発見はほとんどありません。日本におけるこの発見は、ウミガメ類が全世界に分布を広げた過程を探る上において大変重要な発見と言えます。
なお、この研究成果は2024年1月26日(金)より東北大学で開催される「日本古生物学会第173回例会」にて発表します。
本研究のポイント
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鹿児島県にて、日本および東アジアで最古(約1億年前)となるウミガメ類の化石を発見しました。これは、初期のウミガメ類がどのようにして世界中の海に分布を広げていったのかを明らかにする上で重要な発見です。
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発見された部位は甲羅の一部(右の外腹甲骨)と首の骨(頸椎骨)の一部で、いずれも白亜紀および現生のウミガメ類と共通の特徴がみられます。
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ウミガメ類の化石の発見された長島町獅子島は、これまで白亜紀の首長竜や翼竜、恐竜などの化石が相次いで発見されている場所です。今回の発見により、当時の生態系を明らかにする上で、長島町獅子島は重要な研究スポットであることが改めて示されました。
概要
ウミガメ類(ウミガメ上科)は、海に生息する大型のカメ類です。現在はアオウミガメ(ウミガメ科)やオサガメ(オサガメ科)など、2科6属7種のウミガメ類が生息しています。ウミガメ類の起源は前期白亜紀の約1億3500万年前とされ、最古の化石は南米から発見されています。ウミガメ類の祖先は河川などの陸水域に生息していましたが、やがて海に進出し、大きな体とヒレ状の手足をもったウミガメ類となりました。
前期白亜紀(約1億4500万年前〜約1億500万年前)のウミガメが発見される地域は、南米、ヨーロッパ、オーストラリアなどに限られていますが、その後、後期白亜紀(約1億500万年前〜約6600万年前)にかけて、ウミガメ類は世界中に分布するようになりました。日本でも、北海道や近畿地方を中心に、後期白亜紀のウミガメ類が発見されています。そのような背景から、ウミガメ類が世界中に分布を広げる過程を明らかにする上で、後期白亜紀初期の化石は大変重要です。しかし、この時代のウミガメ類の化石は珍しく、日本を含む北太平洋沿岸域からはほとんど化石が見つかっていません。
研究グループは2020年10月、以前より化石発掘調査を行ってきた鹿児島県長島町獅子島の約1億年前の地層「御所浦層群幣串層」より、新たに骨の入ったノジュール(塊状に固結した岩石)を発見しました。東京都市大学での分析の結果、ノジュールにはウミガメ類のものと考えられる甲羅の一部(外腹甲骨)と頸椎骨が保存されていることがわかりました(図1)。この化石は、日本ならびに東アジア全体で最古のウミガメ類化石であり、太平洋の北西部沿岸から発見された初期のウミガメ類として非常に珍しいものです。
今回発見された骨は、推定甲長約70cmという大型のカメ類のものであり、甲羅の骨同士の接合面(縫合)がゆるく柔軟性があることなど、形態の特徴からウミガメ類に属することが明らかとなりました(図2)。
太平洋は白亜紀当時から世界最大の海域でしたが、太平洋沿岸部から後期白亜紀初期のウミガメ類の化石が発見されることは珍しく、当時のウミガメ類の化石記録のほとんどは大陸の上に広がる浅い海や、大陸に囲まれた狭い海域で堆積した地層に限られていました。今回、太平洋北西部沿岸に相当する日本の地層から初期のウミガメ類が発見されたことは、ウミガメ類が広範囲に分布を広げた過程を解明する上で、大変重要な意義があります。
研究の背景
鹿児島県長島町獅子島では、これまで同研究グループによる化石発掘調査が行われてきました。獅子島には白亜紀の地層「御所浦層群」が分布しており、その中でも陸で堆積した地層からは恐竜類の骨化石密集層(※注1)や淡水性カメ類の化石が、海で堆積した地層からはアンモナイト類や二枚貝類、巻貝類などの軟体動物のほか、首長竜類(※注2)や翼竜類(※注3)などの大型脊椎動物の化石が発見されています。
御所浦層群が堆積した白亜紀中頃は、現代と比べてもきわめて温暖で、鳥類や哺乳類、被子植物など現代の生物につながる古生物が爆発的に進化した時代であったとされています。ウミガメ類も白亜紀中頃に爆発的に進化した生物のひとつで、当時の生態系と生物の進化について解明することは、現代の生態系のルーツを探ることでもあるといえます。
研究成果の社会的貢献および今後の展開
本研究の成果により、日本から発見される化石が生物進化に関する世界的な研究課題の解決に重要な役割を担っていることを再認識させるものです。特にウミガメ類は現在も生息しており保護の対象となる生物であり社会全体からの関心も高いことから、その生態進化を明らかにすることは多くの人にとって有意義なものと考えられます。また、今後は都市部の大学と、化石など自然史資料の豊富な地方自治体が、双方の教育および研究の推進という目的のために協力しあう関係性を構築していくことが望まれます。
補足
長島町獅子島で発見されたウミガメ類化石につきまして、研究グループは鹿児島県西部の旧国名にちなみ「サツマムカシウミガメ」という通称を提案しています。また本研究プロジェクトにおいて、復元模型の作成は海洋堂・古田悟郎氏に依頼しました(図3)。
用語解説
※注1 骨化石密集層(ボーンベッド):
骨や歯など、脊椎動物の骨格が密集して堆積した地層。獅子島では過去、本研究グループにより御所浦層群のうち陸上の河川デルタなどで堆積したと考えられる「陸成層」より骨化石密集層が発見されているが、今回のウミガメ類化石が発見された幣串層は陸棚など海底で堆積した「海成層」であり、これらは別の地層である。
※注2 首長竜類(プレシオサウルス類):
中生代三畳紀〜白亜紀に生息した海の爬虫類。その名の通り長い首とヒレ状の手足を持った爬虫類で、10mを超える大型のものも生息していた。一部の種類は首が短縮し、巨大な頭を持つようになった。獅子島から発見されている首長竜類(通称サツマウツノミヤリュウ)は首が長いエラスモサウルス科の一種である。
※注 3 翼竜類:
中生代三畳紀〜白亜紀に生息した飛翔性の爬虫類。ジュラ紀から白亜紀にかけて大型化し、後期白亜紀には翼開張10mにおよぶ大型なものも登場した。陸だけでなく海の地層からも発見されることが多く、一部の種類は水面上を飛翔し魚類やタコ・イカ類などを捕食していたと考えられる。
共同研究者
宇都宮 聡 氏 (パナソニック株式会社、大阪市立自然史博物館外来研究員)(第二著者)
日本古生物学会HP URL: https://www.palaeo-soc-japan.jp/events/
発表題目:中島保寿・宇都宮 聡,2024. 「鹿児島県長島町獅子島の白亜系御所浦層群から産出した日本最古のウミガメ上科(Testudines: Chelonioidea)化石」日本古生物学会第173回例会(東北大学).
<取材申し込み先>
大学運営課(広報担当)(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)