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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)工学部 機械工学科の丸山 恵史講師は、温度差を利用して発電できる熱電材料に使用可能な「炭化ホウ素」を用いて、従来より300度低温で合成できる新素材を開発しました。
「炭化ホウ素」などのホウ素系材料は、実験室レベルでは高い熱電性能を有することが確認されていますが「脆く」「焼き固まりにくい」という特性があるため、従来の製法で実用的なサイズの部材を作製するには2000度近い高温で焼き固める必要がありました。
今回開発した新素材は、原料粉末に重量比で10~15%の金属を混ぜることにより、焼結温度を約1700度まで下げるとともに、電気伝導度を約1.5倍向上させることに成功しました。さらに本材料は、実用化されている熱電材料より軽量で硬いという性質も備えていることから、今後、自動車エンジンをはじめ、工場の熱機関等にも適用範囲の拡大が期待されます。
なお、この成果は、10月27日から11月1日に開催された「第13回環太平洋セラミックス会議(PACRIM13:The 13th Pacific Rim Conference of Ceramic Societies)」にて発表しました。
本研究のポイント
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700度以上での温度差で発電するホウ素系材料を従来より低温で合成
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微量の金属を混合し、脆い材料の欠点を克服
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自動車エンジンへの実装で省エネを目指す
概要
東京都市大学 工学部 機械工学科の丸山 恵史 講師は、温度差を利用して発電できる熱電材料に使用可能な「炭化ホウ素」を、従来より300度低い温度で合成できる技術を開発しました。炭化ホウ素などのホウ素系材料は、実験室レベルでは高い熱電性能を有することが確認されています。しかし「脆い」、「焼き固まりにくい」ために実用的な大きさの合成ができないという課題がありました。
炭化ホウ素の場合、部材を作製するには原料粉末を成型し、2000度近い高温で焼き固める必要がありましたが、今回、放電プラズマ焼結法(※1)と呼ぶ新技術を利用し、原料粉末に金属を重量比にて10~15%混ぜることで、粉末の表面が溶融する温度が低下し、焼結温度を約1700度まで下げることができました(共晶反応※2)。
さらに金属を混ぜることで電気伝導度が約1.5倍に高まり、熱電材料として期待していた以上の優れた性質を示すことができました。
炭化ホウ素は電子の空いた穴(ホール)が電気を運ぶp型半導体の性質を示します。高性能の熱電変換デバイスを開発するには、p型と、電子が電気を運ぶn型半導体を組み合わせる必要があります。丸山講師はn型として高い性能を示す金属のホウ素化合物の合成も進めています。この材料も別の金属を混ぜることで焼結温度が下がることを確認済みです。p型とn型を組み合わせた熱電変換デバイスも試作し、現在、性能評価と特性を高める研究を進めています。
研究の背景
エネルギー問題や原子力発電等の電力供給問題が叫ばれる中、分散型電源を利用した社会構築に関する研究が進められています。分散型電源の一つとして、熱を利用した発電法である熱電発電技術は、固体素子の物理現象を利用した発電であることから、駆動部がなく静音であり、さまざなまスケールに対応可能であることから、副次的な発電技術として注目を集めています。熱電変換材料は室温近傍ではビスマス-テルル系材料、近年では有機高分子を用いた材料が盛んに研究されています。しかし、温度が高いほど、酸化や分解等の影響で使用可能な材料候補が限られ、600度を超えると希少です。丸山研究室では、軽量であり、高温でも比較的熱電特性が良好なホウ素系熱電材料に注目し、研究を進めています。ホウ素系熱電材料は、合成ならびに緻密化、成型に難があるため、同講師らは、粉末冶金的手法を用いて、容易に緻密な成型体の作製を目指してきました。
この成果は、日本学術振興会から科学研究費助成事業(18K14030)を受けて実施し、10月27日から11月1日に開催された「第13回環太平洋セラミックス会議(PACRIM13:The 13th Pacific Rim Conference of Ceramic Societies)」にて発表しました。
研究の社会的貢献および今後の展開
ホウ素系材料は熱電変換デバイスとして実用化されているビスマス・テルル系化合物より6割程度軽量であり、温度も800度程度までは安定に使用することができます。
ホウ素系の熱電素子が完成すれば、自動車や工場での熱機関などで適用範囲が広がり、スケールを問わず使用できることから、現行の発電所においても付加して使用可能ではないかと考えられます。熱電発電は、太陽光や風力と同じようなクリーンな発電法ですが、自然をエネルギー源にしていないため、恒常的な発電が期待できます。
熱電発電材料以外にも、炭化ホウ素は代表的な超硬材料であるタングステン・カーバイト並に硬く、重さは5分の1程度に抑えられます。安価に作れるようになれば、超硬金型などへの応用も期待されます。
用語解説
※1 放電プラズマ焼結:加圧焼結法の一種。試料に直接電流を流し、発生するジュール熱で試料を焼結する。加熱と同時に試料を加圧するため、通常の焼結方法よりも緻密な焼結体が短時間で作製可能である。
※2 共晶反応:一つの液相から二種の固相金属A、Bが生成する反応。
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企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)