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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木千壽)工学部建築学科の小見康夫教授ら研究チームは、全国の寺院本堂約4,000の事例を調査・解析し、伝統的な木造建築による寺院の平均使用年数(※1)が235年に達することを明らかにしました。これは、鉄筋コンクリート耐用年数(100年、※2)の2倍以上であることから、木造建築物の長期間使用の可能性を示すもので、今後の木造建築の設計やメンテナンスの新たなる指標になるものと考えられます。
本研究のポイント
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わが国には、法隆寺のような千年以上前に建築された木造建築物が現存する一方、戦後建てられた木造住宅の平均耐用年数が30年程度と言われてきたことから、木造建築は短寿命との認識が広がっている
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伝統的木造建築物(寺院本堂など)の平均使用年数について、定量的な知見は十分でない
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全国の寺院本堂約4,000の事例を基に、平均使用年数を算出したところ、全国平均では235年(地域差有り)となり、鉄筋コンクリート耐用年数(100年)の2倍以上に達することがわかった
調査概要
・内容:伝統的木造建築の客観的な使用年数調査
・対象:全国の寺院本堂 17,574宇(無作為抽出法により選定。ただし、母集団に入れると平均使用年数が長くなるため、国指定文化財建造物は除く)
・期間:2007年~2016年
・有効データ:約4,013件
・方法:
①住職へのアンケート調査(2007~2012年度)により、現在および建て替え前の各本堂の使用期間を記録の限り遡った。生存時間解析(※3)という、本来は人に用いる手法を応用し、建築から解体までの平均年数を割り出した
②地域別では、全国(沖縄県を除く)を、北海道・東北・関東(東京都を除く)・東京・中部・近畿(大阪府を除く)・大阪・中国・四国・九州の10地域に分けてそれぞれで平均値を求めた
【結果と考察】
①全国でみると、平均値は235年となった。(図1)これにより、一般的な寺院建築でも、継続的なメンテナンスを行うことで、相当長期間の使用に耐えうることが統計的・定量的に明らかになったと考えられる。
②地域別でみると、近畿や関東では300年超とさらに使用年数が長いこと、一方で東京都は119年と全国平均の半分、北海道はさらに短いことなどがわかった。(表1。図2は、地域別の結果を比較)これは歴史的な発展時期の地域差や、戦災、都市化などの影響が反映されたと考えられる。
研究の背景
木造建築は、戸建住宅や神社仏閣といった限られた用途でのみ用いられてきましたが、最近では学校や老人ホーム、商業施設に使われるなど、新たな展開が始まっています。しかし、100年程度の耐用年数があるとされる鉄筋コンクリート造に対して、木造建築はどの程度使い続けられるのか、十分な定量的知見はありませんでした。
成果と課題
世界では、21世紀は木造建築の時代になるとも言われており、ロンドンでは木造高層マンションが実現し、他の欧米諸国でもさらなる高層マンションが次々と提案・建設されつつあります。その中で、本研究成果は、今後建築される木造建築物の設計やメンテナンスの新たなる指標となると考えられます。
その一方で、今回のデータは、寺院本堂に限られたものであるため、今後は、異なる種類の木造建築物についても調査し、さらに信憑性を高めていく必要があると考えます。
研究チーム
小見 康夫 東京都市大学工学部建築学科 教授
勝又 英明 東京都市大学工学部建築学科 教授
佐々木 健 東京都市大学工学部建築学科 客員研究員
用語解説
※1 使用年数:
本研究では、建築から解体までの年数を指す
※2 鉄筋コンクリート耐用年数(100年):
日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5・鉄筋コンクリート工事2015(2015年7月改訂)」に記載されている建築物の標準の供用限界期間
※3 生存時間解析 :
ある病気にかかった人の集団を一定期間観察し、時間経過による生存率の変化や平均生存時間などを解析する手法