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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木千壽)理工学部 応用化学科の秀島 翔准教授らは、半導体バイオセンサーを用いて、未分化なiPS細胞を簡便に検出する技術を開発しました。
iPS細胞は、我が国が2006年に世界に先駆けて作製に成功して以降、特に再生医療の分野における重要な役割が期待されています。今回開発した技術は、移植細胞中に残存する未分化iPS細胞を半導体センサーで簡便に検出するもので、再生医療の安全性向上への貢献が期待されるものです。
再生医療における分化誘導過程において未分化のiPS細胞が残存すると、それらの細胞が移植後に腫瘍化する危険性があることから、高度な検出方法が求められています。しかしながら、既存の検出方法では作製した移植用細胞の一部を検査に使用し、さらに特殊な色素や大型の装置が必要な上、作業にも数時間の時間を要しています。
今回開発した技術は、小型の半導体バイオセンサーを用いて、この未分化のiPS細胞を電気的に検出するもので、iPS細胞を移植用細胞に分化させる培養液をセンサーに一滴垂らすことにより、約1時間での検出が可能となります。
今後は、感度や定量性の向上に向け、さらなる開発を進めていく予定です。なお、これらの研究成果はWiley-VCH社が提供する科学誌『Analysis & Sensing』(2021年創刊)にて、2022年8月26日(金)にオンラインで掲載されました。
本研究のポイント
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半導体バイオセンサーを用いてiPS細胞から培養液中に分泌されるバイオマーカーを直接検出
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作製した移植用細胞を損なわずに微量の細胞培養液を分析するだけで未分化なiPS細胞を検出可能
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バイオセンサーを用いた移植用細胞の安全性評価技術の開発により再生医療の普及を促進
概要
皮膚などの細胞から人工的に作り出すことができる幹細胞であるiPS細胞(※1)は、再生医療や原因不明の病気の治療などへの利用が期待されています。治療にはiPS細胞から分化することで作製した細胞や組織を用います。ところがまだ分化していないiPS細胞が残ったまま移植してしまうと、腫瘍ができるなどの問題が起こります。そのため、移植に際しては未分化のiPS細胞が残っていないことを確認する必要があります。現在の検出技術では作製した移植用細胞の一部を検査に使用し、さらに特殊な色素や大型の装置が必要で、作業にも数時間要する問題があります。
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)理工学部 応用化学科の秀島 翔准教授は、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 逢坂 哲彌特任研究教授、同大学先進理工学部応用化学科 門間 聰之教授および林 宏樹助教、国立研究開発法人 産業技術総合研究所・細胞分子工学研究部門 舘野 浩章研究グループ長と共同で、小型の半導体バイオセンサーを用いて未分化のiPS細胞を簡便に検出する技術を開発しました。iPS細胞を移植用細胞に分化させる培養液をセンサーに1滴垂らすと、約1時間で未分化iPS細胞が残っているかどうかを調べることができます。
様々な組織の細胞に分化させることができるヒトiPS細胞は、分化誘導過程で未分化のiPS細胞が残存すると腫瘍化してしまうのではないかという恐れがあり、医療応用の際には安全性の課題があります。今回開発した技術を用いて少量の培養液を電気的に調べることで、残存したiPS細胞の有無を事前に把握することができ、iPS細胞を用いた再生医療の安全性向上への貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、Wiley-VCH社が提供する科学誌『Analysis & Sensing』(2021年創刊)にて、2022年8月26日(金)にオンラインで掲載されました。
研究の背景
iPS細胞は、様々な組織の細胞に分化できる能力(多能性)と分裂して自分と同じ性質の細胞を増やせる能力(自己複製能)を有することから、再生医療への応用が期待されています。一方で、作製した移植用細胞に未分化細胞が残存すると、それらの細胞が腫瘍化する危険性が危惧されています。iPS細胞の安全性を向上するためには、移植治療を行う前に、移植用細胞にどのくらいiPS細胞が残存しているかを検査することが重要です。従来のフローサイトメトリー(※2)と呼ぶ検査技術は、高度な分析スキルや大型装置が必要であるため分化誘導過程での簡便な検査が難しく、また作製した移植用細胞の一部を検査で消費しなければならないという課題がありました。
半導体バイオセンサーは、ゲートと呼ばれる検出表面に対象となる物質(バイオマーカー等)が付着することで生じる電気的な変化を検出する素子です(写真、図)。同センサーは半導体技術を利用して作製されるため、小型集積化に有利であり、大量生産時にはセンサーの低コスト化が可能となります。
今回、ポドカリキシン(※3)と呼ばれる糖タンパク質がiPS細胞から培養液中に分泌されることに着目して、半導体バイオセンサーを用い培養液に含まれるポドカリキシンを直接検出することに成功しました。具体的には、半導体にあらかじめ塗布したレクチン(※4)にiPS細胞が分泌したポドカリキシンが結合すると半導体に流れる電流が変化します。電流が変化すると未分化のiPS細胞が残っていることがわかります。今回開発した半導体バイオセンサーにより、細胞を使わずに微量の培養液を調べることでiPS細胞の有無をその場で簡便に判定できるようになります。
研究の社会的貢献および今後の展開
本技術をiPS細胞由来の移植用細胞の安全性評価に利用することで、iPS細胞を用いた再生医療の促進に貢献できると期待されます。また本技術は自動細胞培養装置と組み合わせることで移植用細胞の分化状態をその場でモニタリング可能となるデバイスの開発を目指し、医理工の連携研究をさらに進めていく予定です。
今後は、感度や定量性の向上に向けて、半導体に加えて、電気化学的な手法などを用いる小型測定装置の開発も進めます。
補足
<論文情報>
掲載誌名:Analysis & Sensing
論文タイトル:A Non-Destructive Electrical Assay of Stem Cell Differentiation Based on Semiconductor Biosensing
著者:Sho Hideshima, Hiroki Hayashi, Sayoko Saito, Hiroaki Tateno, Toshiyuki, Momma, Tetsuya Osaka
掲載誌URL:http://dx.doi.org/10.1002/anse.202200046
DOI:10.1002/anse.202200046
用語解説
※1 iPS細胞(人工多能性幹細胞):
皮膚などの細胞に特定の遺伝子を入れて人工的に増殖させて作られる細胞。あらゆる組織や臓器を形成する細胞になることができ、臓器移植などの再生医療や、原因不明の病気の治療法確立などにおいて期待されている。受精卵が分割してできた胚盤胞(はいばんほう)の内部の細胞を人工的に増殖して作るES細胞(胚性幹細胞)と異なり、受精卵を操作する必要がないため倫理的な問題を避けられる。また、患者本人の細胞から作られるため拒絶反応を心配する必要がなく、医療現場での実用化に向けて研究が進められている。
※2 フローサイトメトリー:
細胞を懸濁させた液体を細胞が一列になるように流れている状態にし、それにレーザー光を当てて反射する光を測定し、光の強さを電気信号に置き換えて定量化し、細胞一つ一つの情報を自動的にサンプリングする方法。細胞1個1個の相対的大きさや形状、内部構造の違い、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析することができる。また、細胞を蛍光抗体で標識することによって細胞表面にある抗原量を定量的に測定することもでき、細胞の形態の差としては現れない細胞の性質の差を識別することが出来る。また、液滴となった細胞懸濁液に電荷を与えることで、性質の異なる細胞を分取することも可能。
※3 ポドカリキシン:
高度にO型糖鎖などで糖鎖修飾されている膜タンパク質の一種。ヒトのiPS細胞やES細胞に発現するポドカリキシンは、ヒトのiPS細胞やES細胞に特異的に存在するHタイプ3というO型糖鎖をもっている。もともと腎臓の糸球体上皮細胞(ポドサイト)で見つかったタンパク質であるが、ヒトiPS・ES細胞でも高い発現を示すことが分かっている。
※4 レクチン:
糖鎖と結合する能力を有するタンパク質の総称。レクチンと糖鎖の相互作用は様々な生命現象に深く関与していることが明らかにされつつある。
共同研究者
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 特任研究教授 逢坂 哲彌
早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 教授 門間 聰之
早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 助教 林 宏樹
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 研究グループ長 舘野 浩章
<取材申し込み先>
学長室(広報担当)(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)