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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木千壽)工学部機械工学科の岸本喜直講師ら研究チームは、データベースに頼らない剛性(※1)の予測・評価を可能にするため、締め付けたボルト・ナットをハンマーなどで叩いた際に生じる振動速度を、コンピュータ上で予測するシミュレーション技術を開発しました。
これにより、材質の強度(※2)に応じたボルト・ナットの締め付け力を計算によって求められ、工程の短縮が可能となります。さらに、この技術を既設構造物に用いることで、保守管理の省力化とともに、熟練技術者不足の解消も期待できます。
開発のポイント
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つなぎ目における微小な凹凸が及ぼす剛性応力(※3)分布への影響を、数理的に見積もる力学モデルを開発した。
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開発した力学モデルに基づき、機械の剛性と応力状態を演繹的に計算するマルチスケール・シミュレータ(※4)を開発した。
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開発したマルチスケール・シミュレータをデータ同化(※5)技術と組み合わせることで、機械全体の剛性、つなぎ目の微小な凹凸、つなぎ目の応力分布の三者を関連付けることに成功した。
用語解説
※1 剛性:材料の変形のしにくさを表す指標。剛性が高いと叩いたときの振動の速さが速くなる。身近な例はピアノの弦。弦は短く張ると変形しにくく(剛性が高く)なり、鍵盤で叩いた時の振動が速くなるので、高い音が出る・逆に長く張ると、剛性が低く振動が遅くなるので低い音が出る
※2 強度 :材料の壊れにくさを表す指標
※3 応力 :材料に外力が作用した時に、材料内部に外力に応じて発生する単位面積あたりの力
※4 マルチスケール・シミュレータ:材料の微視的な性質と、機械の巨視的な性質を関連づけて解析するシミュレーション手法
※5 データ同化 :シミュレーションによる予測を行う際に、適宜実測値を入れることで補正を行い、シミュレーションの精度を改善する手法。(代表例:気象シミュレータ)
概要
機械を設計・開発する際、工具を正確に利用する上で、剛性の把握は必須です。ボルト・ナットを使って二つ以上の部品を締め付けて固定する方法(以下、ボルト締結)は、剛性の変化において重要な意味を持ち、構造物の大きさや用途に関わらず幅広く用いられています。
従来の設計・開発では、実験から得られた剛性などのデータベースから個々のデータを利用するのが一般的です。しかし、新たな機械を設計する際、データベースにない剛性の予測・評価には適用できず、またボルトの締結やゆるみなどによる剛性の変化についても、一般的かつ定量的な予測・評価法は確立されていません。
つなぎ目表面の様子の例:目視(左)と微視レベルの様相(右)
そこで本研究では、データベースに頼らない剛性の予測・評価を可能にするため、締め付けたボルト・ナットをハンマーなどで叩いた際に生じる、振動の速度を予測するシミュレーション技術を開発しました。まず、つなぎ目における微小な凹凸が及ぼす剛性と応力分布への影響を数理的に見積もる力学モデルを開発。この力学モデルに基づき、機械の剛性と応力状態を演繹的に計算するマルチスケール・シミュレータを開発しました。マルチスケール・シミュレータをデータ同化技術と組み合わせることで、機械全体の剛性、つなぎ目の微小な凹凸、つなぎ目の応力分布の三者を関連付けました。
二枚の板を八本のボルトで締結した試験片を用意した打撃試験では、試験片に生じた振動はシミュレーションで予測されたものと合致し、つなぎ目表面の粗さが違う試験片に対しても、実測とシミュレーションの数値が合致しています。開発したシミュレーションソフトは実際の振動の速度をよく捉えることができ、ボルトの締め付け力が設定された時の剛性の高さを推定できるようになりました。
打撃試験の様子
つなぎ目表面の粗さとボルトの締め付け力に対する振動の速さの実測とシミュレーション
成果と応用
・データベースに頼らない剛性の予測・評価
従来の設計・開発で利用が一般的だった、実験から得られた剛性などのデータベースに頼らなくても剛性を予測・評価できるようになりました。新たな機械の設計・開発にも適用できます。
・材質の強度に応じたボルト・ナットの締め付け
例えば、自動車産業では、強度が必要な部位には鋼を、そうでない部位には軽量なアルミ合金を用いるマルチマテリアル構造が主流となりつつあります。本構造におけるほとんどの締結方法は、鋼製ボルトなどによるボルト締結ですが、アルミ合金の強度が比較的低いために、負荷を与えすぎない程度の適正な締め付け力が必要とされています。
現在、公益財団法人JKAの助成を受けて、マルチマテリアル構造に対して、本手法の有効性の検証と応用する際の課題の抽出を実施しています。この研究成果をもとに、現場の技術者が設計・管理に利用できるシミュレーションソフトウェアを開発し、5年以内の実用化を目指しています。
・既設構造物の整備に有効な、ボルトの締め付け力を定量的に評価する技術の開発
2012年に発生した笹子トンネル天井板落下事故は、天井板を吊るためのCT形鋼と覆工コンクリートをつないでいたボルトが脱落したことに起因していたとされています。本成果は、同事故をはじめとする既設の大型構造物の老朽化や整備不良に伴う事故の防止に貢献できると期待されています。現在、データ同化シミュレーションを利用して、ボルト周辺を叩いたときの振動の違いからボルトの締め付け力を定量的に評価する技術の開発を進めています。
データ同化シミュレーションの概略
つなぎ目表面の粗さの実測とデータ同化シミュレーションによる推定
研究チーム
岸本喜直 東京都市大学 工学部機械工学科 講師
小林志好 東京都市大学 工学部機械工学科 准教授
大塚年久 東京都市大学 工学部機械工学科 教授
新妻基 東京都市大学 大学院工学研究科機械工学専攻 大学院生