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トピックス詳細(プレスリリース)
東急建設株式会社
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区 学長:三木千壽)工学部 建築学科 西村 功教授と東急建設株式会社(東京都渋谷区 代表取締役社長:今村俊夫)技術研究所の研究チームは、油圧ダンパーと積層ゴム支承を組み合わせた新型ハイブリッド制震構造について、8月31日、実在建物の約4分の1スケールモデルを用いた振動台公開実験を行い、従来のパッシブ型制震構造を大きく上回る性能があることを実証いたしました。
西村教授の発明による「部分免震構造」は、これまで小型振動台実験によってその減衰性能が学術的に評価されていましたが、今回、東急建設技術研究所(神奈川県相模原市)の大型振動台において、過去の代表的な被害地震3種類の地震波加振実験を行った結果、実在建物の合理的な構造システムとして、実用化できる性能が確認されました。
なお、この実験的研究は、東急グループに属する東京都市大学と東急建設の産学連携包括契約(2017年4月締結)に基づく共同研究の一課題です。この産学連携スキームでは、東京都市大学が有する研究シーズを東急建設の事業ニーズにマッチングさせることで、大学の研究成果を社会実装する多様な取組みを推進しています。

大型振動台に設置された4層鋼構造試験体

油圧ダンパー(制震)と積層ゴム支承(免震) を
組み合わせたハイブリッド構造
研究成果の実現性
〇制震構造の主要部材である減衰装置(油圧ダンパー)と免震構造の主要部材である積層ゴム支承との組み合わせにより、従来のパッシブ型制震構造が有する減衰性を大幅に上回る性能を発揮します。
○これまでは、大学の研究室において、小型模型を用いた振動台実験によって新型ハイブリッド制震構造の減衰性能に関する振動制御理論の妥当性を検証していましたが、今回、実在建物の約4分の1スケールモデルによって、この理論値と実験結果が一致することを確認しました。
○従来のパッシブ型制震構造に比較して、ほぼ2倍の地震動に適応できるため、これまでの制震デバイスでは、設計で想定した制震性能を発揮することが困難であった中低層建築物の合理的な制震構造システムとして、実用化が期待されます。
○工期・コストの側面で現実的な地震対策が難しい既存不適格建物に対して、経済的かつ高性能な制震補強技術として適用することが可能です。
○災害発生時の防災拠点として、建物の機能維持が要求される病院、小・中学校、消防署などの中低層公共施設に採用することで、発生危険度が高い巨大地震の防災・減災に寄与します。
研究の背景と経緯
パッシブ型の制震構造は、1980年代後半から研究開発が活発に行われ、この約30年間に様々な減衰装置が開発されました。特に、油圧ダンパーは、中小地震から大地震に至るまで、安定した制震性能が期待され、多くの建物に採用されています。これまで、建築振動工学の分野では、これらの減衰装置を建物各層に設置することで、比較的容易に減衰性能を発揮できると考えられてきました。しかし、構造モニタリング技術とインターネットの発達により、多くの実在建物で地震観測データが得られるようになると、従来の層間型のパッシブ制震構造では、設計で想定する様な減衰性能が発揮されていない事実が明らかとなってきました。
西村研究室では、その原因究明にあたり、独自の振動理論を構築することによって、建築架構の減衰率と振動数は、個別に独立して変化するのではなく、一定の関係を有しながら変化することを明らかにしました(文献1)。この結果、高い減衰性能を発揮して地震時の構造的な損傷を低減するためには、大きな振動数の変化が必要であることも判明し、この構造形式を「部分免震構造」として特許登録しました(文献2)。
今回の実験的研究では、積層ゴム支承と減衰装置のハイブリッド構造によって、比較的簡便に大きな振動数の変化と高い減衰性能を実現できることを検証しました。


3種類の地震波加振実験の状況
実用化に向けた体制
現在、西村研究室では、積層ゴムメーカー、建設会社、構造設計事務所、研究機関など、複数の企業と団体からなる研究会「淡広会(たんこうかい)」を定期的に開催し、地震発生時の防災・減災を目指した情報共有と研究開発の課題共有を図っています。西村研究室と東急建設は、この研究会の構成員として、本共同研究の成果を活用し、2020年度を目途に建物へ適用し、新型ハイブリッド制震構造の社会実装に向けた取組みを加速する予定です。
用語解説
※1 免震構造:積層ゴム支承で支えられた建築構造で、耐震性能の高い構造形式
※2 積層ゴム支承:鋼板とゴムを重ね合わせて製造した構造部材で、免震構造の主要部材
※3 制震構造:減衰装置を建物の骨組みに設置することで減衰性能を高めた構造形式
※4 剛性:建物に作用する地震力(水平力)と建物の水平変形との比率、剛性が高いと振動数は高くなる
参考文献・特許
文献1:
「構造物内部に設置された減衰装置の性能評価」日本建築学会構造系論文集 第579号、pp.23-30、2004年5月
文献2:
発明の名称「部分免震構造」、特許番号6298402号、出願日2014年12月2日
研究責任者
西村 功(東京都市大学 工学部 建築学科 教授)