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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)共通教育部 自然科学系の須藤 誠一教授らは、レーザドップラー振動計を用いて、世界初となる100分の1Hzの超低周波を測定できる非接触測定技術を開発し、この技術を搭載した測定器を併せて開発しました。
今回開発した測定技術は、測定部位にレーザ光(発振光)をあて、測定部位からの反射光をレーザ光源内部に帰還させることで、光源内部で発振光と干渉し、この干渉の解析を行うことで超低周波を測定する点に独自性があります。
風力発電等の大型機械が稼働する地域では、かねてから超低周波(20Hz以下)の関与が疑われる健康被害の訴えが寄せられています。しかしながら、これまでは超低周波の測定技術が確立されていなかったため、この原因を特定することは困難でした。今回、須藤教授らが開発した技術を用いた測定器は、可搬性にも優れることから実地調査にも適しており、この健康被害の原因特定が期待されます。
なお、本研究は、2月に米国光学会(OSA)の学術論文誌“Applied Optics”にて発表しております。
本研究のポイント
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世界で初めて100分の1 Hzの超低周波数振動や、スローモーションの観測をレーザドップラー形式で実現
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同技術を搭載し、可搬性に優れる測定器を併せて開発
概要
東京都市大学共通教育部の須藤誠一教授らは、これまで困難だった極めて低周波の音波の発信源の状態を非接触で測定できる技術を開発しました。回転機械などから発生する耳には聴こえない超低周波音波は体調不良の一因と疑われています。しかし、その発振源の測定方法が無く解明できていませんでした。今回、レーザドップラー振動計を用いる独自開発の非接触測定技術で、100分の1Hz(10mHz)までの低周波を測定することに成功しています。
開発した技術は、研究室オリジナルの実験手法である測定部位に当てる発振光と反射光の干渉を利用する自己光混合効果*を基盤としています。計測感度が光源に用いるレーザの材質や形状等の特性によって決定されるため、その改良を重ねることで計測システムの高感度化を達成してきました。今回、10 Hz~10 mHzの超低周波振動を測定できました。
装置は縦70 cm×横 70 cm×高さ20 cmとコンパクトで2 kgと比較的軽く、持ち運びできるため、超低周波が発生すると思われる様々な場所で、音波の発信源の周波数や運動の状態を測定できます。医学関係者と組んで健康被害の原因解明に利用するなど、多方面での実用化を目指します。
今回の研究成果は、2月に米国光学会(OSA)の学術論文誌“Applied Optics”に掲載されました。
研究の背景
東日本大震災を契機に、再生可能エネルギーへの関心が高まっており、高さ100m近い商業用の風力発電装置が建設されています。しかし、風力発電の普及した欧州では施設周辺住民から、めまいや頭痛・不眠などの症状を伴う症例が多数報告され、日本でも風車と健康被害に関する研究が徐々に増えつつあります。
これらの症状は転居によって改善することから、風車の駆動と健康被害の因果関係が指摘されています。一般的に、大型機械から発生する可聴周波数を大幅に下回る超低周波音にさらされると、睡眠障害のほかに、血圧上昇やめまい、頭痛、耳鳴り等の自律神経失調症状が生じるとされています。このとき、超低周波音は前庭器官への直接的な刺激によって起こる症状で、超低周波音が「聞こえない音」であることが問題を複雑化させています。
風力発電の健康被害への因果関係を明らかにするためには、大型機械で起こる微弱な超低周波振動の検出が必要となります。現在、広く使われている電気的な振動検出法では、測定部位に電気素子を取り付ける必要がありますが、広域の測定には不向きで、素子の接触による振動の変化も懸念されます。
レーザドップラー振動計測法は、測定部位にレーザ光を照射することで、測定部位の運動を評価することができるため、非接触で広域の測定に適した手法です。測定原理は、レーザ光源から発生するレーザ光(発振光)を測定部位に照射すると、測定部位から反射光が生じます。あらかじめ発生したレーザ光の一部(参照光)を取り出しておき、反射光と干渉をさせます。このとき、測定部位が振動していると、ドップラー効果によって反射光の振動数は振動速度に応じて変化します。そこで干渉信号の解析によって、測定部位の振動数や速度が評価できます。この手法では、レーザ光の周波数変化が測定部位の速度に関係するため、超低振動や遅い運動速度の評価には適しません。
研究の社会的貢献および今後の展開
本技術は、簡便なレーザと検出器で測定ができるため、小型で安価な測定器を構築することもできます。現在、同じ計測原理・光学系を用いた様々なナノレベルでの物性計測も達成できており、一台で多機能のナノ測定器を開発することも期待できます。
補足
【論文掲載(2019年2月)】
Seiichi Sudo et.al., "Evaluation of resonance phenomena of mechanical oscillator by self-mixing solid-state
laser Doppler vibrometry", Applied Optics, Vol.58, Issue 6, pp.1530-1536,2019.
URL:https://www.osapublishing.org/ao/abstract.cfm?URI=ao-58-6-1530
用語解説
※:自己光混合効果
測定部位から発生した反射光をレーザ光源内部に帰還させる。この時、発振光と反射光がレーザ光源内で干渉することで、発振光の強度が変化する。この変化の解析から、測定対象の運動状態を非接触で評価できる。
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)