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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)工学部 機械システム工学科の白鳥 英講師は、光学機器に用いられるカラーフィルター等について、製造時に生じる「膜厚ムラ」の形成機構を解明し、このムラを回避・抑制するための指針を提案しました。
近年、4K・8Kといった高解像度化の影響もあり、カメラやビデオのような光学機器に用いるカラーフィルター等の産業用フィルムにおける膜厚ムラの許容レベルが一層厳格化されています。
この膜厚ムラは、製造時のスピンコートによるガラス基盤への塗布工程において放射状に生じるもので、主要因は表面張力の分布による「マランゴニ効果」とされていますが、この度、同講師は実験的な観察と数値解析により、塗膜の構成材料である溶媒の種類・濃度を調整することで同効果が弱まることを解明しました。
これにより、樹脂との表面張力の差が小さい溶媒種ほど、「膜厚ムラ」が発生しにくいといった材料指針を提案することができ、歩留まり率の向上に大きな貢献が期待されます。
なお、この研究成果の一部は、2019年9月13日から15日に開催される「日本流体力学会 年会2019」にて発表されます。
本研究のポイント
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産業用フィルムの主要な製法:スピンコート法で発生する膜厚ムラの形成機構を解明
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表面張力の勾配によって流れが駆動される「マランゴニ効果」がムラ発生の主要因
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ムラを回避・抑制するための材料・塗布条件の指針を獲得
概要
スピンコート中に発生する放射状の膜厚ムラ(図1)の形成機構として、マランゴニ・ベナール不安定性として知られる現象と類似のメカニズムであるとの仮説(図2)を立て、これを数値計算と実験によって検証しました。膜厚ムラを回避・抑制するためには、その形成機構の主要因であるマランゴニ効果(*1)を弱くすることが有効です。塗膜の構成材料のうち、固形分は変更できないが、溶媒については調整自由度があります。溶媒の種類や初期濃度を調整することでマランゴニ効果を弱くすることができ、そのための材料指針を提案します(図3)。
研究の背景
カメラやビデオ等の撮像素子に用いられるカラーフィルター、映像機器のガラス部の保護膜、電子機器や流路などの微細構造等の微細加工技術を利用した製法では、感光性樹脂と溶剤から成る機能性の液膜を対象物に塗布する工程がありますが、塗布工程中の様々な物理要因によって最終的な塗膜に膜厚ムラが生じる場合があります。
特にカラーフィルターや微小流路成型などの分野では塗膜を最終的な製品構造物として用いるため、膜厚ムラは製品の寸法精度に直結する課題となります。たとえば撮像素子の場合は、近年4K・8Kと高解像度化するにつれて、膜厚ムラの許容レベルも厳しくなってきています。
発生する膜厚ムラには幾つかの形態がありますが、図1に示すような基板中央から外周部に向かう放射状のスジムラは、基板全域に渡って発生するため品質への影響が極めて大きいです。しかし、これまでの産業界での回避・抑制策はノウハウ的であり、材料種・塗布条件を変えた際のムラの回避・抑制指針が強く求められてきました。
これまでの国内外の研究で、放射状スジムラの形成要因にマランゴニ効果が深く関与しているとの仮説が立てられてきましたが、この仮説は十分に検証されておらず、また、放射状スジムラを回避・抑制するための具体的な指針も得られていませんでした。本研究では、マランゴニ効果の中でも樹脂と溶媒の濃度差に起因したマランゴニ効果が膜厚ムラの発生において支配的な要因であると考えて、実験的な観察と理論・数値解析によって仮説の検証を進めてきました。
研究の社会的貢献および今後の展開
本研究で提示する指針は、
・塗布溶液を構成する溶媒と樹脂の表面張力差
・溶媒の蒸気圧
・初期の溶媒濃度
という専門分野の異なる技術者でも一般的に入手しやすい情報を元に判断できるものであり、産業界での実用性が高いと期待されます。溶媒の蒸気圧が低く、樹脂との表面張力差が小さい溶媒種ほど放射状の膜厚ムラが発生しにくく、発生した場合でもムラの程度が小さいと予想されます。また、同一の溶媒種を用いる場合はなるべく初期溶媒濃度を小さくする方がムラを回避・抑制できると予想されます。
この研究は日本学術振興会から科学研究費補助金(17H07158)を受けて実施し、成果の一部を2019年9月13日~15日に開催される日本流体力学会 年会2019にて発表予定です。
用語解説
※1 マランゴニ効果:
気体と液体の界面に沿って表面張力の分布が存在する場合に、流体運動が引き起こされる効果。表面張力は温度や表面活性な物資の濃度によって変化する。マランゴニ効果によって駆動される流れはマランゴニ対流と呼ばれる。
対流が起こる要因として、密度差による浮力対流が知られているが、浮力対流は重力に起因するため、宇宙空間など、表面張力に対して相対的に重力の影響が小さい状況ではマランゴニ対流が顕在化する。国際宇宙ステーションにおける日本の実験棟「きぼう」の中で、地上では実現できないような大きな液柱内のマランゴニ対流の観察実験が行われた。
宇宙でなく地上であっても、薄い液膜などの微小な系であれば重力の影響がほとんどなくなり、マランゴニ効果が顕在化する。
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)