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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)知識工学部 情報科学科の大屋 英稔教授らは、心肺停止患者に電気的除細動(電気ショック)を適用すべきかを判定するシステムの構築を進めており、この度、研究開始当初に比べて、識別性能が大幅に向上(正常洞調律については100%,心室細動/心室頻拍と無脈性電気活動については95%以上)したことを確認することができました。
心肺停止患者へ電気ショックを適用すべきか否かを自動的に識別することができる「自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)」ですが、2[Hz]以下の低周波数帯域に特徴を有する心室頻拍などの場合、この識別が困難となります。
今回、心肺停止患者の心電図波形をウェーブレット変換し、各周波数成分のもつエネルギーの強弱を色の濃淡で出力するスカログラムから、同波形を特徴づけるパラメータを抽出したことにより、識別性能の向上が可能となりました。
今後も更なる高性能化、高速化を図り、将来的にはAEDに研究成果を実装することにより、蘇生率向上への寄与が期待されます。
なお、この研究成果は、2019年12月16日からオーストラリア・ゴールドコーストで開催される国際会議「ICSPCS’2019」で発表(17日)する予定です。
本研究のポイント
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心電図波形をウェーブレット変換(※1)することによって,心室細動や心室頻拍などの心電図波形を特徴づけるパラメータを抽出
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抽出したパラメータに基づいて心肺停止患者に対して電気的除細動(電気ショック)を適用すべきか否かを判定するシステムの構築
概要
東京都市大学知識工学部情報科学科の大屋英稔教授は、日本学術振興会の科学研究費助成事業「心電図波形の高精度識別システム構築・検証」【分担者:中野和司名誉教授〔電気通信大学大学院情報理工学研究科〕、山口芳裕教授〔杏林大学医学部救急医学〕、宮内洋教授〔杏林大学医学部救急医学(現在:一般財団法人救急振興財団)〕】において、心肺停止患者への電気ショックの適用可否の判定性能を大幅に向上する技術の開発を進めています。
我が国では、突然の心停止による死者数が年間に約3万人にのぼるといわれています。突然の心停止の一般的な原因は、心室細動・心室頻拍といった重症不整脈であり、これらの重症不整脈を生じている患者には、心肺蘇生法(※2)と出来るだけ早期の電気的除細動(電気ショック)が必要となります。そのため、心停止患者の心電図波形を解析し、電気ショックを適用すべきか否かを識別する自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)が様々な場所に設置されています。ただし、2[Hz]以下の低周波数帯域に特徴を有する心室頻拍などの場合、AEDでは識別が困難となります。
そこで、本研究ではまず心停止患者の心電図波形をウェーブレット変換して心電図波形を特徴づけるパラメータを抽出しました。図1は心室細動の一例とウェーブレット変換して得られるスカログラム(※3)を示しています。図1は、各周波数成分が時間的にどのように変化しているかを表しており、カラーバーによってエネルギーの強さ(赤になるほどエネルギーが強い)を表しています。心室細動は、ランダムに心臓が痙攣している状況にあることを意味していますが、スカログラム(図1)でみると主に2~5[Hz]の周波数帯域で特徴がみられます。このようにウェーブレット変換を用いて解析を行って心電図波形を特徴づけるパラメータを抽出した後に、得られたパラメータに基づいて電気ショックを適用すべき波形か否かを判定するシステムの構築を進めてきました。
その結果、研究開始当初に比べて識別性能が大幅に向上(正常洞調律については100%,心室細動/心室頻拍と無脈性電気活動については95%以上)したことを確認することができました。
図1 心室細動の一例(左)のそのスカログラム(右)
今後も更なる高性能化、高速化を図り、将来的にはAEDに研究成果を実装することにより、実社会において実際の蘇生率向上に寄与することが期待されます。
なお、この研究成果は、2019年12月16日からオーストラリア・ゴールドコーストで開催される国際会議「ICSPCS’2019」で17日に発表する予定です。
研究の社会的貢献および今後の展開
本研究で提案する「心電図波形高性能識別システム」の検証が進み,実用化されれば、突然の心停止患者の蘇生率向上に大きく貢献することが出来ます。
用語解説
※1 ウェーブレット変換:
任意の波形の周波数を解析するための方法の1つで、対象となる波形の周波数成分が時間とともにどのように変化していくのかを調べるための手法です。
※2 心肺蘇生法:
気道確保、呼吸や心臓が停止していると見られる人に対して胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸,AEDの組み合わせで呼吸機能や血液循環を維持させる補助手段です。
※3 スカログラム:
ウェーブレット変換によって得られた結果を周波数(縦軸)と時間(横軸)の2次元グラフで表し、各周波数成分のもつエネルギーの強弱を色の濃淡で出力したグラフのことです。
共同研究者
「心電図波形の高精度識別システム構築・検証(基盤研究(C),22560402,25420443)」
電気通信大学大学院情報理工学研究科 中野 和司 名誉教授
杏林大学医学部救急医学 山口 芳裕 教授
杏林大学医学部救急医学(現在:一般財団法人救急振興財団)宮内 洋 教授
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)