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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木 千壽)情報工学部 知能情報工学科の渡部 和雄教授らは、出版物の利用促進を目的に、媒体別(紙と電子)における消費者の使い分け状況を明らかにし、出版社や書店に向けた利用促進策を提案しました。
近年、電子出版物の販売額が増加する一方、紙出版物のそれはおおきく減少しており、出版社や書店には、紙・電子出版物の共存に向けた消費者への利用促進策の提案が求められています。
今回、紙・電子出版物に対する消費者(20~60歳代)の意識や行動について5年にわたり調査・分析(毎年1回、各500~1000名)した結果、年代や目的、シーンによって特徴が表れることが明らかになりました。
これにより、両者の共存に向け、電子出版物には価格の引き下げやコミック類のラ インナップを充実させること、文字の読みやすさなどを改善すること、また、紙出版物にはターゲット層を明確にし、装丁を改善することなどの利用促進策を提案できるようになりました。
今後は、出版社や書店との連携を図り、消費者が紙・電子出版物の利用場面やジャンルごとに出版物を上手に使い分け、出版物の利用が一層促進されることを期待しています。また、この成果は一般社団法人 日本印刷学会の2019年「論文賞」を受賞しました。なお、受賞式の様子は、同学会誌第57巻3号(2020年6月発行)でも紹介されました。
本研究のポイント
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5年間の消費者の紙出版物と電子出版物に対する意識や行動をアンケートし、分析した。
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紙出版物・電子出版物の強みと弱み、紙と電子の使い分け状況を明らかにした。
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紙出版物・電子出版物の利用促進への示唆を示した。
概要
紙出版物と電子出版物に対する消費者の意識や行動について、2013、2014、2017、2018、2019年に行った計5回の調査とその結果の分析により、主に次のことが判明しました(調査対象は20歳代~60歳代、各回500~1000名)。
・じっくり読む時、覚えたい時は紙出版物を利用。何かしながら、すきま時間には電子出版物を利用。(図1)
・新聞や小説を読むなら紙出版物が人気。コミックなら電子出版物が人気。(図2)
出版科学研究所によれば、紙出版市場は2019年まで15年連続で縮小する一方、電子出版市場は伸びています。現在は、消費者も出版社も紙出版物と電子出版物の共存形態を模索しているところであると言えるでしょう。そこで、消費者の出版物利用状況を知り、紙出版物と電子出版物をうまく使い分けてもらうことなどにより出版物の利用促進策を検討することを研究目的としました。
特に紙出版物のみの利用者(以下、紙のみ利用者)と紙出版物と電子出版物を併用する者(以下、併用者)の意識や行動の違いに焦点を当ててアンケートを作成し、回答を分析しました。その結果、上記以外に次のことが明らかとなりました。
①50~60歳代は、紙のみ利用者が併用者より多い一方で、20歳代~40歳代は電子出版物併用者が紙のみ利用者より多い(表1)。これは、パソコンやインターネットの普及率が50%を超えた2000年前後に30歳以下だった世代はICT(情報通信技術)に慣れ親しんでおり、電子出版物のインターネットでの購入やスマートフォンでの購読に抵抗がないためと考えられます。
②20~30歳代では、3~4割が紙出版物も電子出版物も週1日未満の利用に留まります(表1)。若年層はスマートフォンの動画やゲーム、SNSなど、他の関心事も多いことも一因と考えられます。
③紙のみ利用者は紙出版物の満足度が高いです。これは、紙のみ利用者が電子出版物を利用しない理由の一つと考えられます。
④併用者は電子出版物の長所(場所を取らない、何千冊も持ち運べる、買いやすいなど)を好意的に見ています。一方、紙のみ利用者は電子出版物の短所(目が疲れやすい,コンテンツが少ないなど)を厳しく見ています。
⑤消費者は電子出版物の低価格化、品揃えの充実、サービスの継続などを求めています。
これらの結果を受けて、紙出版物と電子出版物の販売促進のため、次のような利用促進策を提案します。
①消費者が紙出版物と電子出版物をうまく使い分けられるようにします。紙出版物については、出版社がターゲット年齢層(こども、若年層、中年層、高齢者層)を明確にする、収集に向けた装丁や感触を良くする、多様なジャンルの書籍を出版・販売するなどが求められます。
②電子出版物については、出版社は価格引き下げ、短所の改善、コミック類の充実と出版ジャンルの多様化、移動中などにスマートフォンで読みやすいコンテンツの提供などが求められます。特に、若年層にはスマートフォンのように小さな画面でも読みやすいフォントを使った読み物や容易にスクロールしながら読めるコミックなどが求められます。
③書店には、消費者が書籍や雑誌を手に取って選べる強みがあります。ネットを使って書店の独自イベントについて広報して、消費者を書店に誘導したり(O2O: Online to Offline)、地域特性に合った品揃えをしたり、書店のお勧め書籍などで個性を出すなどの工夫と努力が求められます。
研究の背景
出版科学研究所によれば、紙出版市場における2019年まで紙出版物の販売金額は15年連続で前年実績を下回っています。2019年の紙出版物販売額は18年比4.3%減の1兆2360億円とされる一方で、2019年の電子出版物販売は前年実績を23.9%上回る3072億円でした。売上が減少している紙出版物と増加している電子出版物の共存と使い分けが求められます。
研究の社会的貢献および今後の展開
本研究の成果は5編の論文(査読有り)として主要な関連学会(日本印刷学会、情報処理学会、経営情報学会、日本経営工学会)にて発表しました。そのうち、日本印刷学会誌に掲載された「紙出版物と電子出版物利用者の意識や行動の定量分析」(2019年6月 Vo.56, No.3に掲載。渡部和雄、梅原英一、岩崎邦彦の共著)は、日本印刷学会誌の2019年論文賞を受賞しました。これに関連して、2020年6月3日(水)~5日(金)に京都工芸繊維大学で開催される画像関連学会連合会で招待講演を行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)防止のため、学会は中止となりました。しかし、日本印刷学会誌第57巻3号(2020年6月発行)で受賞の様子と著者の略歴が紹介されました。また、今後開催予定の同学会にて招待講演を行う予定です。
なお、本研究は文部科学省・日本学術振興会による科学技術研究費の補助を受けています(2017年度~2020年度で450万円)。
本研究の成果により、一般の人が紙の出版物と電子出版物を利用場面や関心の高い ジャンルでうまく使い分けることにより、出版物により親しむことを願っています。また、そのことが出版社や書店の支援になると期待しています。
用語解説
電子出版物:
スマートフォンやパソコン、タブレット端末などの電子機器で閲覧可能なデジタルコンテンツ。電子書籍、電子雑誌、電子新聞を含む。
共同研究者
東京都市大学 メディア情報学部 情報システム学科 教授 梅原 英一
静岡県立大学 経営情報学部 経営情報学科 教授 岩崎 邦彦
<取材申し込み・お問い合わせ先>
企画・広報室(E-mail:toshidai-pr@tcu.ac.jp)