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トピックス詳細(プレスリリース)
東京都市大学
東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木千壽)総合研究所の小西拓洋教授ら研究チームは、塗装の上から橋梁の鋼材表面に生じる疲労亀裂を検出できるシステムを開発しました。
この結果、検査時間の大幅減と、従来法ではできなかった検査結果のデータ化に成功しました。疲労亀裂の検出について、現在は、熟練技術者の経験に裏打ちされたノウハウに頼っていますが、本システムを導入することで、経験の浅い技術者でも、信頼性の高いデータを簡単な操作で得ることができるようになり、インフラ構造物が大量に老朽化する時代の技術者不足解消に貢献することが見込まれます。
本研究のポイント
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塗装の上から鋼材表面に生じる疲労亀裂を検出できる
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亀裂の分布表示、検査結果の記録が可能
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検査時間は3分程度と従来の1/5程度
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操作が簡単で、経験の浅い技術者も使用できる
概要
本システムでは、金属機械部品の表面の傷を検出する際に用いられていた渦流探傷試験(※1)用装置に、信号記録と画像表示の機能を付加させることで、橋梁における疲労亀裂の検査結果をデータ化し、検出精度の向上と、誤検出の減少を実現しました。
写真1は本システムの構成を示しています。中央に示すのは、スキャナと呼ばれる座標計測装置で、2本のワイヤー先端に取り付けた磁気センサーにより溶接部(写真2)を検査します。図1は結果の表示例で、赤色部分において疲労亀裂の可能性が高いと判断されます。本システムでは、画面上の亀裂検出位置を溶接部と対比して確認できるため、その場で判定結果の確認を行うことができます。
図2は平板に設けた深さ0.5mmの傷を検査する際の信号を示したものです。Aは、センサーが検出した電圧ベクトルの大きさで、傷の大きさを表します。B(横軸回りのねじれ角度)は位相角(※2)で、傷の性質を表しています。これらにより、検出した傷が疲労亀裂であるかそれとも他の傷であるかを判別し、誤検出を減らしました。そして、結果を画像化して記録することで、見落としと誤りのない信頼性の高い検査を実現しました。(表1)
研究の背景
鋼構造物の疲労亀裂は、損傷の中でも構造物の破壊に繋がる可能性が高く、インフラ構造物における点検の重要項目となっています。 国内では老朽化したインフラ構造物の割合が増え、また点検の質・回数が法律により規定されたことから、維持管理の手間と費用増加が懸念されています。
一般的に、橋梁は錆びないよう塗装され、疲労亀裂の検査の際には、塗装の割れを見つけ塗装を除去して行う蛍光磁粉探傷試験(※3)が用いられてきました。これは亀裂が、塗装割れ部分に生じている場合が多いためですが、実際に見つかる割合は1~2割程度で、1箇所の平均検査時間は15分、記録は写真しか利用できず非効率なものでした。道路橋では、検査すべき溶接箇所の数が急増しているため、1箇所あたりの検査コストを下げることが必要とされています。塗装上から亀裂を検出する技術は、効率化やコスト削減に有効です。
また、渦流探傷試験は、電磁誘導作用を利用して塗装下の傷を検出する手法です。しかし鋼材の溶接部には磁気ノイズが多く、既存の方法では結果(写真3)の判定が難しいことから、見落とし、誤検出が生じやすく、これまで橋梁での利用は限定的でした。
成果・応用と課題
本システムを用いることで、亀裂検査の大幅な効率化が図られます。今後は、現場での適用実験を経て実用化し、利用拡大を目指します。また、船や建物への応用も想定されます。
用語解説
※1 渦流探傷試験:
探触子の中のコイルに交流電流を流し、電磁誘導により鋼板に渦電流を発生させ、鋼板表面の傷を検出する手法で、主に航空機、工場内の機械部品を対象に用いられる
※2 位相角:
交流電圧の交流電流に対する推移(時間差)を角度で表したもの
※3 蛍光磁粉探傷試験:
対象となる部位を交流電磁石により磁化し、そこに蛍光塗料でコーティングされた細かい磁粉を含む検出液を塗布、その後亀裂から漏洩した磁束に吸着した磁粉に紫外線を当てることで発光させ、亀裂を可視化する試験方法